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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
番外編
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番外編 白の大地 雪の女王 7

「その後、すぐ俺はラシード隊長に助けてもらったよ。アフラの母親の戦女神も駆けつけてくれた。アフラと子どもたちを埋葬して、散り散りになった馬も回収して、その場所を後にした。それからは隊長について行ったよ。俺の子どもたちは嬢ちゃんと嬢ちゃんの弟と同じくらいの年だったか。だから、子どもの頃の嬢ちゃんたちに会えて、本当にうれしかったんだぜ。うちの子が大きくなったらこんな感じかって」

ザイードは成長した娘をみる父親のような目つきをした。

「今も娘が成長した姿が嬢ちゃんに見えるよ。嬢ちゃんを愛しいと思うのは娘を愛しいって思うのと同じなのかな…」

そう言ってザイードはリァンの目にたまった涙をぬぐった。

いつの間にやら一人分開いていた場所が詰められていた。

「ありがとな、アフラや娘や息子、俺のために泣いてくれて」

月に作られた濃い影が重なった。

「俺の愛はアフラのものだ。ほかの女は愛さない。だから、この先俺がどんだけ口説いてもつれなく振ってくれよ」

影は重なったものの、ザイードの唇はリァンに触れなかった。

ザイードを見つめリァンはこくんとひとつ頷いた。

ザイードはリァンの顔から手を離した。

リァンへの思いがわからぬうちに行動に移してしまって、リァンが受け入れてくれたらアフラに残した思いを失ってしまう。

そうしたら、後悔しかしないと思った。

「アフラは俺にとって唯一の雪の女王だ。俺はな、旅の途中雪原で死ぬつもりだ。そこに月が出ていれば最高だ」

月の出ている雪原を思い浮かべザイードは笑みを浮かべた。

そこで迎える自分の最期はどんなに素晴らしいものかと。

「一つ嬢ちゃんにお願いがある」

リァンが目を瞬くと、リァンが書いた手紙の西の言葉の部分を優しく撫でた。

「この手紙、お守りがわりに持っていていいか?」

「ええ」

「逆に書くってよく思いついたな。これは俺らの子ども時分の遊びのひとつなんだ」

リァンは目を丸くした。

そんなこととは知らずに書いたものだった。

「子どもの頃、隊長さんが教えてくれたんです」

「そうだったのか…俺は何度もあの人に救われるんだな…」

ザイードは浮かんだ涙を拭い取った。

今回リァンを生きて取り戻すことができたのはラシードの仕込みのおかげだと思った。

丁寧に手紙を革の小物入れにしまい、懐に入れた。

「手紙にあるように必ず会いに来る」

リァンはザイードの目を見て深くうなずいた。

「だが、俺の雪の女王の元に馳せ参じる時が来たら、嬢ちゃんの前を辞すことを許してくれよ」

「・・・許すわ」

「それまでは、すべて我が月の女神の望むままに」

そう言ってザイードはリァンの手を取り、その指先に唇を当てた。

「さて、長話をしちまったな。俺は宴会に戻るが、どうする?」

「もう少しだけここにいます。ヤンを待ちます」

「そうか」

ザイードはリァンをその場に残し、宴会に戻った。

ザイードの代わりに宴会から追い出されたヤンを見て、リァンはニコリとほほ笑んだ。

少し不安そうな様子のヤンだったが、リァンの笑顔を見て安心したようだ。

ザイードと2人で部屋を立って、2人で話すことに同意はしたものの居ても立っても居られない所を他の隊長たちに取り押さえられていたのだろう。

ザイードが戻ったことで、解放されてそのまま部屋から追い出されたに違いない。

隣に座ったヤンに無言で抱き寄せられ、リァンはその胸に擦り寄った。

月が煌々と2人を照らした。


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