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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
番外編
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番外編 白の大地 雪の女王 5

翌日、ザイードたちは予定通り出発し、ラシードの言ったように二つ先の町で逗留した。

この町に残した手のものが日に二度三度と短い手紙をよこした。

早馬が戻ってくるが早いか、アフラの母親が私設の軍隊とも見て取れるよな装備で現れた。

「これは戦女神」

「ラシード隊長、久しぶりね。娘の窮地を教えてくれてありがとう」

ラシードは戦女神の指先に恭しく唇を落とした。

2人は目を見合わせ意味ありげに笑った。

戦女神はザイードを見やった。

「ザイード。全滅と聞いていたけど、無事でよかった。そして、アフラを見つけてくれてありがとう」

「そんな・・・」

礼を言われて、でもアフラに対して何もできないザイードはただ俯いた。

「顔をあげなさい、ザイード。前を向きなさい。あんたも生きている。アフラも生きている。やり直しはいくらでもきくよ、シャキッとしな!アフラを取り返したらあんたに任せるから、その腕の中からアフラを落とすんじゃないよ」

そういって戦女神はザイードの背中を叩いた。

「はい!」

ザイードは顔をあげた。

戦女神とラシード隊長がニコリと笑ったのが目に入った。


そこからはあっという間だった。

ラシードと戦女神がアフラの婚家に押し掛け、暴行を受けているアフラを見つけた。

腹を守るように身をかがめるアフラの腹を蹴っている現場を取り押さえられ、有無を言わさずアフラの夫は男たちに取り押さえられた。

取り押さえられて、その場で申し開きもなく離縁することになった。

アフラの舅や姑もわたわたと言い訳をしようとしたが、戦女神とラシードがにらみつけ押し黙った。

「おい!アフラ!大丈夫か!!」

場を収めている戦女神やラシードにザイードの悲痛な叫びが届いた。

見れば、アフラが腹を抱えて苦しんでいた。

「ザイード!アフラを抱えて連れておいで!落とすんじゃないよ!!」

「はい!!」

いうが早いか、ザイードは苦しむアフラを抱きかかえた。

「ザイード・・・」

「行こう、アフラ」

静かに言うとアフラを抱きかかえて戦女神の後に従った。


アフラを助け出して数日後、ザイードは戦女神にアフラが静養している部屋に呼ばれた。

「アフラが話したいって言うけど、話すかい」

「はい」

部屋に入れば髪は短く整えられたアフラがいた。

顔や首にあとは残るものの少しすっきりした様子なのに驚いたが、静かに用意された椅子に座った。

「ザイード、ありがとう」

ザイードはアフラの言葉に涙をぽろっとこぼした。

「やだ、泣かないでよ」

「泣いてない」

「あー・・・じゃあ、そのままでいいから聞いてよ」

アフラの言葉にザイードはうなずいた。

「あんたが見つけてくれた時、私、死にに行こうとしてたんだ、よく覚えてないけど」

驚いてアフラを見るとアフラはニコリと笑った。

「家に閉じ込められてて、乱暴されて、あの日あんたに腕をつかまれて初めて外にいるって気づいたんだ。ちょっと前にあんたの隊が全滅したって聞いて、死んだんだって思った。良かったって思った」

「アフラ」

「でもあんたは生きてた。生きて私を助けてくれた。だから、ありがとう、ザイード」

「こどもは?」

「あー・・・流れちゃった・・・これで2回目。妊婦蹴るなんて最低の男だろ」

「最低だ」

「あんたはそんな最低の男にならないでよ」

「約束する」

ザイードはアフラの手を握った。

真剣な目つきで。

その真剣な目つきにアフラは耐えられなくて、目をそらすように軽く首をかしいだ。

「あんたが所帯を持ってあんたの子ができたらさ、抱かせてよ」

「え?」

「あんたの妻の了解がいるか・・・」

アフラは少し寂しそうに笑った。

「私はあんたたちと行かないで、もう少し、北西の方に行く。そこにさ、西の交易用に馬がいるんだよ。そこの飼育場に行く。あんたさ、私の育てた馬で西との交易してよ。あんたの活躍を楽しみにしてるよ」

「アフラ。俺もそこに行く」

「ヤダよ、あんたは来ないで」

「行く」

「あんたが嫁と仲良くしてるのを私に見せつけようっての!」

「そんなことしない。アフラの側にいたいだけだ」

「・・・勝手にしなよ」

「勝手にする」

2人は静かに手を握り合ったままでいた。

その様子を見ていた戦女神とラシード隊長の計らいで、二人は北西の草原にある馬の飼育場で生活することになった。


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