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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
番外編
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番外編 白の大地 雪の女王 3

事実、ザイードが帰ってくる前にアフラは嫁入りした。

ザイードが出立時にはまだどうなるかわからないから、いつも通りの笑顔で見送った。

出立までの間も顔を合わせればザイードは何か言いたげで、それでも何をアフラに言ったらいいかわからない様子だった。

ザイードが出発して時々もたらされたのは、若い隊商の男が活躍しているという話だった。

その話の若者のいで立ちからザイードだと思って、話を聞くたびにたくましくなったであろう幼馴染を思ってアフラは誇らしく思った。

アフラの嫁入り先は北方で、冬は雪深いところだった。

ラクダで途中まで行き、そのあとは馬に乗り換えての嫁入りだった。

嫁入りの途中、犬を連れた若い男を助けた。

若い男は嫁入り先の町まで共に行き、別れる時にお礼と言って彼か犬かがだしたもののどちらかを選ぶように言われた。

少し迷って若い男が出した緑色の石が、初恋の男の身につけていたものに似ていて、自分の目の色にも合ったので選んだ。

そして、若者と犬とは別れた。

相手は母親の祖母方の縁戚とはいえ、見た目は自分とは似ても似つかなかった。

夫となる男はこのあたりではそこそこ有力な家の放蕩息子ということで、しっかりした娘に嫁に来てほしいと願いがまわりまわってアフラに白羽の矢が立ったのだ。

初夜で初めて顔を合わせた男のことをお世辞でも「好きになれない」とアフラは思った。


ザイードが帰還したとき、迎えてくれたアフラの妹がアフラが嫁いだことを教えてくれた。

「そこそこ有力な家らしいから、姉さんは幸せに暮らしてるよ、心配いらないさ」

そう言ってアフラと似た笑顔を向けてくれた。

その中に自分を慕う熱のようなものを感じたが、気づかないふりをした。


次の旅程でザイードはその実力が買われたのか、最後尾に着くように隊長から指示された。

試されていると感じ、がぜんやる気が出た。

「これでうまく行きゃ、アフラの妹ちゃんの婿候補になれるかもな」

他の男からそう言われた時は心臓がドクリとなった。

以前、アフラがほころぶような笑顔をハキームに向けていたことをおもいだし、アフラの妹が似た笑顔を自分に向けていることを隊商の連中が知っていて、アフラの母親もそこそこ乗り気なのだそうだ。

この旅程の成功で判断をするらしい、そんな話が漏れ聞こえてきた。

嫁いで幸せに暮らしているだろうアフラを思い出すのはこれきりにして、自分を慕う若い娘と所帯を持ってかわいがって、家族を作るのならそれもそれでいいと思った。

「俺はアフラを好きだったんだな・・・」

誰もいないところでぽつりとつぶやいた。


その大事な旅程でザイードは失敗した。

大きな砂嵐に巻き込まれ、自分の目の前にいたはずの隊商を見失ったのだ。

見失って、あてどない砂漠で一人になってしまった。

ラクダもなく、身に着けていた水筒もなく、暑い日にさらされて干上がった。

砂漠を一人彷徨い、命を失いかけたある夜に見上げた月から女神が下りてきた。

ゆめか幻かわからないままザイードは目を閉じた。

「これで終わりにしよう」と思った。


「おい!生きているか!!」

翌朝、奇跡的に別の隊商に助けられた。

その隊商はザイードの町よりももう少し東を拠点にした隊商であった。

あるいみ商売敵のような存在だが、隊長が親身になって助けてくれたのだ。

ラクダに括り付けられ、水と食事を与えられ、なんとか命をつなぎ止めた。

詳しい話ができるほど回復した時にもたらされたのは、ザイードがいた隊が全滅したということだった。

「全滅?」

「砂嵐で道に迷ったらしい。だいぶ交易ルートを外れていた。お前は運がよかったな。一部のラクダと荷物は回収できたから、これから目的地まで届けてやる。お前はどうする?」

そう言われて喉が鳴った。

隊商が全滅ということは、自分もすでに死んだことになっているだろう。

とはいえ、この隊長が一部のラクダと荷物を回収してくれたなら、それを届ける義務はあるし、アフラの母親に詳細を報告する義務がある。

「俺もこのまま連れて行ってください。隊商で最後尾を任されていました。役に立ちます」

そういうと隊長はニコッと豪快な笑みを浮かべた。

「ラシードだ。お前の名は?」

「ザイード・ラーです」

「異国の太陽の神の名を持つのか。いいぞ、太陽の神の加護を受けたならこの旅もうまくいくだろう。よろしく頼む。ザイード」

「こちらこそよろしくお願いします」

ザイードはラシード隊長の隊の一員として働き、目的地に一部の荷物を届けると、それでも感謝された。

どうにも足らなくなっていた薬が入っていたそうだ。

本来ならそのまま帰る旅程だったが、ラシードの隊はこのまま北に向かうということだった。

もちろん、一人残るわけにいかないので、共にすることにした。

だいぶ町が近くなったときに町の名を聞いていないと思って尋ねると、帰ってきた名に驚いた。

アフラが嫁いだという町だった。

広い町で数日滞在するだけで出会えるはずもないだろう。

アフラの妹が言っていたようにアフラが幸せならなにも言うことはなかった。

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