番外編 白の大地 雪の女王1
「嫦娥は悪女を夢見るか」の番外編スタートします!
まずは、ザイード隊長の恋バナから、どうぞ!
リァンの敵討ちが終わり、復興を手伝ってくれた隊商たちがそれぞれの目的地に向かうというので、ファナの夫・カドはそれぞれの隊商に礼を言って回っていた。
中には言葉が多少不自由な者もいるため、リァンが通訳として付き添った。
出発が最も遅かったのはザイードの隊だが、出発が最も早い隊に合わせて宴席を催した。
復興を聞きつけいち早く戻ってきた娼婦や宿屋の姐さんたちも集まり、非常に華やかな雰囲気になった。
「嬢ちゃん、ちょっといいか?」
派手な宴席でどうふるまったらいいかわからず、静かにしていたリァンをザイードが呼び出した。
チラッとヤンを見やるとこくりと一つ頷いた。
どうやら事前にザイードに話を受けていて、いっときだけ2人きりにすることを同意したのだろう。
「大丈夫。もしもの時はすぐに駆けつける」
ヤンは軽くリァンの手を取り、するりと指で撫でた。
部屋を抜け、料亭の作りかけの中庭に面した廊下にザイードが腰を据えると、一人分開けた隣にリァンが座った。
明るい月が二人の表情をくっきりと映し、濃い影を作った。
「嬢ちゃん、敵討ちの権利を譲ってくれてありがとう。改めて礼を言う」
リァンはふるふると首を横に振った。
ザイードの隊に報復をしなければ気が済まないといった男がいたかどうかはこの際大きな問題ではなかった。
「敵討ちありがとうございました。私は手を汚さずに済みました」
「その手が汚れることは俺も本意ではなくてね。まさかうちの連中まで嬢ちゃんに心酔するとは俺も予想外だったよ」
砂漠の最敬礼をリァンに贈った隊員たちを思い出しザイードは軽く声を立てて笑った。
「それに、屋敷でもたくさん助けてくれてありがとうございます。屋敷から抜け出した時も…」
リァンもニコリと笑みを作る。
その笑みにザイードは胸が痛んだ。
「嬢ちゃんの機転のおかげだ」
ザイードは懐からあの日リァンが書いた別れの手紙を取り出した。
「それ・・・」
別れの手紙は革の小物入れに丁寧に挟まれていた。
あの日、迎えに来た使者の前で書いた手紙にリァンはヤンにもファナにもあらゆる人に「助けて」と書きたかったことを思い出した。
手が滑ったふりをして、西の言葉を乱暴に逆から書いた。
「必ず会いに来て」と。
ヤンもファナも命が狙われる可能性がある以上、巻き込めない。
なんでも願いをかなえると言ってくれたザイードだったら、巻き込んでも許してくれるだろうと思った。
淡い期待で書いた。
怒られても捨てられてもいい、ただ最後に自分の中で希望を持っていたかったのだ。
「こんな熱烈な恋文をもらったのは初めてだ・・・」
「恋文だなんて・・・そんなつもりじゃ」
リァンは恥ずかしそうに目を伏せるとザイードがその手を優しくつかんだ。
「わかっている。兄ちゃんや姉さんに助けを求めると巻き込んでしまうことを心配したんだろ。俺を頼ってくれて嬉しかった。これからもいくらでも俺を頼ってくれよ」
「はい」
「これから先もずっと嬢ちゃんが望むなら俺はなんだって叶える」
「なんでもですか?」
リァンは少しだけ熱のこもった目でザイードを見つめた。
屋敷から連れ出されて以降、少しだけリァンが自分にだけ見せてくれる甘えが心地いいのかザイードは柔らかい笑みを造ってリァンの指先を優しく撫でる。
「嬢ちゃんが望めば俺がなんでも叶えるから、心配するな。兄ちゃんに暗殺されようとも、トラン兄さんに殴られようが、ファナ姉さんに刺客を送られようが、カド義兄さんに嫌味言われようが、俺は嬢ちゃんのために動く」
「私はそんな風に思われても貴方の思いには応えられないですよ」
「ああ、わかってるよ。嬢ちゃんのことは愛しい。嬢ちゃんから思いを返してもらえれば嬉しいが、正直困る。俺は生涯の愛を失ってから、他の女は愛せないんだ…」
俺はさ、と言ってザイードは話し始めた。
ザイードが若かりし日の恋の物語だ。
相手の女性の名はアフラ、その名は白い大地を表し、雪の降る日に白い肌と白い髪と薄い緑の目をもって生まれた。
北方の民の血をひく祖母の影響が色濃く出たはかなげな見た目の娘だった。
アフラの父親は隊商の元締めをやっていたが、若くして他界し、母親が後を継いだ。
母親は非常に商売の才があり、荒っぽい隊商の男たちがその勇ましい姿に「戦女神」と崇めるほどであった。
未亡人のままでは何かと不都合があったため、若い夫をむかえることになったが、意外にも仲が良くアフラと父親違いの妹や弟ができた。
新しい父はアフラも自分の娘のごとく可愛がった。




