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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
71/167

69 終幕15  嫦娥は悪女を夢見るか

完結済作品。週2回更新中!

それから、5年ほど経ち、リァンは暗闇の中で目を覚ました。

そして、男の腕に抱かれていることに深く混乱して、息をひそめた。

「ん・・・リァン・・・リァン、愛している・・・」

寝言なのか寝ぼけているのかわからないが、その声で隣に眠っているのがヤンだとわかり、リァンはヤンの胸にすり寄った。

リァンが夜中起きて混乱するたびに、ヤンはリァンを抱きしめ震えがおさまるまで背中を優しく撫でてくれる。

ヤンはリァンの辛い苦しい悲しいを全て受け取ってくれた。

果て無く優しさを注いでくれるヤンが心配になるが、まだまだ満たされない自分がいることも事実だ。


 何年たっても、悪女の噂は人気が衰えることなく、この町にも興行師がやってきて演目を開くほどだ。

演目の悪女の姿を見て、人々の多くはファナを思い出したようだが、誰一人としてリァンと結びつく人はいなかったらしい。

官能本もまだまだ人気が衰えなくて、トランや義兄は時々思い出したようにザイードのいないところでレンカとの関係を探られるのだそうだ。

ザイードはレンカとの関係を大っぴらにしているせいか、レンカと2人でいると羨ましげな視線で見られるそうだ。

ヤンはというと、なぜか誰にも聞かれることもなく、物語の第1章にもかかわらず完全な創作と思われているようだ。

悪女や毒婦の話が出るたびに居心地が悪い気がするけど、リァンと結びつかないせいか、意味深長な視線も噂も浴びずに生活できている。

レンカ姐さんファナ姉さんはリァンの面影がないことに不満らしいが、そんな噂も楽しみつつうまくかわす2人には感謝してもしきれない。


「リァン。おはよう、よく眠れた?」

問われた声に、おはようと返してほほ笑んだ。

昨夜はリァンが起きたときに一緒に起きてしまって、寝ぼけたふりをしてくれたのだろう。

「今日は朝市が開かれるだろ?一緒に行く?」

小さな女の子を腕に抱えたヤンと口づけを交わした。

じっと二人を見つめる小さな女の子はその髪の毛の色も質も、額や眉毛の形、目の光など顔立ち全てがヤンに似ていた。

「かあさん」

ヤンの腕の中から伸ばされた小さな手をキュッと握りしめた。

リァンは穏やかにほほ笑んだ。

「昨日、ザイードさんが戻ってきたんだって」

「今夜は歓迎会ね?」

「ああ、俺たちの他に姉さん夫婦、長男・次男、兄貴夫婦とザイードさん。義兄上も帰る予定を伸ばして参加するって。リーフェやレンカ姐さんも参加してなんか重大な発表があるみたい。常連だから子どもたちは料亭が預かってくれるらしい」

半年に一度この町によるザイードや他の隊員を招き話を聞くメンツも増えてきた。

義兄の後継教育も順調らしく、大人の社交に混ざるようになった長男次男、通訳を兼ねるリーフェは少し緊張した面持ちをしている。

もちろんただの歓迎会でなく、ときどき交わされる内容で、各地に情報収集に走らせることもめずらしくない。

情報収集と整理にはリァンも駆り出されるし、物理的な対応が必要な時はヤンも招集される。

今回はどうやらザイードがこの町に居つくという話も出ている。

とにもかくにも今夜は穏やかな夜でありますように、そんなことを思った。


朝市に行くために2人で寄り添って街を歩いた。

ヤンの肩の上にはそっくりな女の子がいて、リァンのお腹ははちきれんばかりに膨れている。

産婆と医者の見立てでは双子らしい。

ヤンと指を絡めてもう片方の手はお腹にあて歩いていると、正面から歩いてきた犬を連れた若者を見てリァンは思わず息をのんだ。

事態が落ち着いても一つだけわからないのが彼らの存在だ。

ザイード曰く、「伝説級の厄災」らしいが、東西南北の情報を集めると時々出てくるのだ。

ここ最近、といっても数十年くらいの話では東の海で陸で生まれて育った人魚の王が海に帰る際の手助けをしたとか、南の大国で王位継承者となった王弟に長年紛失していた宝剣を授け、身を破滅させたとか、北の国の浮浪児が世界の王になる手助けをしたとか、西の国では悪魔から民を解放させたとか、眉唾のような話ばかりだ。

だが、そんな話の中に彼らが登場することも少なくない。

とは言え、自分も愛する夫と子を奪われ町を滅ぼし皇帝まで失脚させた嫦娥ではないか、そんなことを考えた。

白いシャツに黒いズボン、何で染めたかよくわからない鮮やかなオレンジ色の薄いカバン。

姿はあの日、初めてあった日のままだ。

若者の目にはリァンが写っていないようだったが、犬はリァンを見て笑顔を見せた。

すれ違いざまに、若者の声が聞こえた気がした。

「君は今、幸せ?」と。

その声にぞくっと背を震わせ、足を止め一瞬をおいて振り返ったらそこには若者も犬の姿も見えなかった。

手が後ろに引っ張られ、ヤンはリァンに目を向けた。リァンは少し夢心地な様子で後ろを見ている。

「リァン?」

「かあさん?」

夫と娘に声を掛けられ、リァンは我に返った。

2人にニコリと笑顔を見せて、大きくなったお腹を撫で、再びヤンに寄り添った。

「今、幸せだな、っておもって」

そういったリァンの耳でガラスの耳飾り、首元で螺鈿の首飾り、胸元でブローチがきらりと光った。


おわり

次回更新は3/10です!

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