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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
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68 終幕14  ザイードの帰還と東の都

完結済作品。週2回更新中!

ザイードが東からの帰りにこの町に寄った。

「この町の一連の騒動、あちこちで話題になってるぞ。俺ら含めた男のダメっぷりもさながら、『嫦娥』『傾国』『ふしだらな毒婦』『希代の悪女』って、それぞれが演劇にも娯楽本にもなっているし、俺たちそれぞれとの官能本も人気だ」

そう言って、娯楽本や官能本を土産として持ってきた。

とはいえ、『希代の悪女』として描かれている女性はどう見てもリァンよりもファナを彷彿させるとは口が裂けても言えなかった。

ファナが流した噂は、ファナに恐れおののいた娼婦街の女たちの口からでたものだから、彼女たちの中では高笑いをするファナが『希代の悪女』そのものなんだろう。

それに『嫦娥』や官能本の女性の挿し絵に描かれる腰元の蝶の形のあざ、あれはレンカ姐さんの姿だとザイードは思い、レンカの滑らかな肢体を思い出してしまった。

「まあ、リァンさんてば人気者ねぇ・・・」

「それにな、央都では皇帝が失脚した。この町での暴動がきっかけでな、あの護衛の兄ちゃんと許嫁の家族が山ほど悪事と不正の証拠を持っていたらしくてな、それを辿っていったら、この町の前の地方官の血筋が失脚して、血筋が近すぎたために皇帝まで失脚してさらし首になった。現皇帝はいくつかの有力貴族と良好な関係を持っているそうだが・・・」

ファナは目を白黒させた。

この町の退廃ぶりは央都にも噂が届いていて、その中心である地方官と悪女の噂に辟易した父親や叔父や兄が再三警告をしていたらしい。

しかし、その警告を無視していたのか、耳に入らなかったのか、散財と退廃は止まらなかった。

血筋の良さに胡坐をかき、地方官とこの町が捨て置かれたのだが、暴動をきっかけにした不正と悪事の証拠に慌てて、地方官との縁切りをしたそうだが、時すでに遅かった。

皇帝と血筋が近いことを笠に着てやりたい放題だった一族への反発は強く、同時に皇帝への不満も高まった。

そして、皇帝やその兄弟姉妹・子どもを含む一族皆殺しや流刑で相当数がさらし首になったとのことだ。

「政争にまで発展してしまったのね・・・人の女に手を出すからよ・・・」

ファナは冷たい目つきで怒り冷めやらぬ様子だ。

まあ、それが最終的な引き金だったのでしょうけど、とファナは思った。

思った以上に央都は腐りきっていたのだろう。

皇帝という首をすげ替えたところで、どれだけ保つか、東は今後荒れるだろうという情報がゼノからも入ってきたばかりだった。

あわせて、東はこの町に気を払う余裕もないだろうが気を抜くなと。

「それにな、あの護衛の兄ちゃん、嬢ちゃんには弱小一族みたいな説明したらしいが、新しい皇帝の一番の血筋である超有力貴族の分家で、諜報の一族のようだ。許嫁ともども不憫なことだが、あんな無能の腰巾着でいたのは、もしかしたら、皇帝含むあの一族の失脚を狙って20年も前からコトが動いていたからかもしれないなぁ」

「ザイードさん!そんな情報どこで仕入れてくるのよ」

ファナはこの町に流れてこない情報を持つザイードの情報網を羨ましく思う。

「俺は商人だからな!情報もしきたりも陰謀も全て商品だ」

「そんなこと言うなら私たちだって、そうよ」

「まあまあ、姉さん。そんなこともあり、市井では『嫦娥』『傾国』『ふしだらな毒婦』『希代の悪女』の人気がすごいったらありゃしない。物語の中では町の連中に恨みを買って殺されるけどな」

ファナとザイードに視線を送られると帳簿に向かっていたリァンは話をきいていなかったのかきょとんとした顔をする。

仇の男にかけられた薬によるあとは化粧できれいに隠されているが、少し顔色が悪い。

「嬢ちゃん・・・?」

ザイードが問えば、リァンは少し顔を赤らめた。

幸せそうな笑みを浮かべた。

「赤ちゃんができたの・・・」

リァンの答えにザイードはファナを振り返ると、ファナもニコリと笑みを浮かべた。


 婚礼式が終わって翌々月には月のものが遅れていることに気づき、医師と産婆に相談した。

子どもができたと聞いたときのヤンの喜びようはなかった。

リァンの足元に跪き、リァンの腰を抱えて、リァンの腹に口付けを落とした。

あまりの行動にびっくりして、リァンは腰を抜かしそうになったが、ヤンが支えてくれた。

ファナやトラン、義兄に両親にと報告をし、全員が喜んでくれた。

以降、ヤンが過保護になりすぎて、リァンが少しでも調子が悪そうだと飛んできてひざに抱えようとするので、ファナに説教を食らう始末だった。

「今朝だって、離すのが大変だったのよ」

「しょうがねえ、兄ちゃんだな」

ファナが今朝のできごとをザイードにも話すと、ザイードはとニヤニヤするものの嬉しさでボロボロと涙を流した。

「そうか、そうか、よかったなぁ」

ザイードは涙を拭ってリァンのそばに寄った。

優しく慈愛に満ちた笑みでリァンを見つめた。

「ありがとうございます」

「体を大切にな」

「はい」

「元気な子を産んでくれよ」

リァンはザイードの言葉がだんだんとくすぐったくなってきた。

ザイードはすっかりリァンの腹の中のリァンの父親のような子どもの祖父のような表情だ。

「産んだら俺にも赤ん坊抱かせてくれな」

「気が早いですよ…でも…」

「でも?」

「この子のことも大切にしてくださいね」

「ああ…もちろん」

「可愛がってくださいね」

「当たり前だ。全ては我が月の女神の望むままに」

そう言って片膝をつきザイードはリァンの手を取りその指先に口付けた。


次回更新は3/7です!

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