66 終幕12 リーフェ
完結済作品。週2回更新中!
リァンは婚礼式前からファナの嫁ぎ先の商家で働いた。
トランとヤンの工房を始めとした職人工房との仕入れや材料の卸し、遠方からくる隊商との通訳を担当していた。
トランとヤンの工房はあの小間使いの少年が見習いになって、少し精悍な顔つきになってリァンに対応してくれることもあった。
少年の教育は主にトランが対応しているということだった。
曰く、「ヤンは工房以外の仕事から逃げられないだろ。見習いの教育がおろそかになるのは困る」だそうだ。
騒ぎの裏側にかかわりすぎたヤンとリァンは、平穏そうな生活を送りつつも、役目が与えられることもあるからだ。
2人ともすっかりゼノの手の内に囲われてしまったのだ。
あの当時、見習いになった少年は物売りとして屋敷との連絡係をしてくれていた。
物売りといってもリァンに対する西の左右反転の文字で書かれた手紙をリーフェの手首に結ぶのとその手紙の重要度に応じた色の小さな造花をリーフェの髪に刺すのが主な役割だったが。
ファナが幼い恋物語を演出したらしい。
とは言え、そのころからリーフェとの間に淡い感情を育てているというのがレンカからの情報だ。
この少年が避難した後のリーフェは見ていられないほど落ち込んでいたな、と思い出した。
この少年を見るとその話を思い出して、少しニマニマとしてしまうと、少年はプイッと恥ずかしそうに横を向くのだ。
そして、その視線はリァンと同じ店で働いているリーフェを探していたりするのだ。
リーフェはリーフェで少年を見ると、パッと花がほころぶように笑顔を見せるので、店の客や取引相手もこの小さな恋を見守るようになっていった。
そんなリーフェの髪を飾るのは少年がリーフェの髪に刺した造花で作った髪飾りだった。
屋敷から逃げだすときに持ち出した小物入れの中に入れていたものだ。
ファナに相談して、小物つくりの工房に依頼して仕立ててもらった。
幼い雰囲気を残すリーフェによく似あっていて、少年は当時のことを思い出すのか、その花の髪飾りを見ても顔を赤くするのだった。
リァンの婚礼式の数か月前のこと、リーフェが意を決したようにファナとリァンに言った。
「ファナ姉さん、あの、リァン姉ちゃんみたいに西の言葉を話せるようになりたいです。あと、計算もできるようになりたいです」
リァンとファナは顔を見合わせた。
復興のころから西の隊商と西の言葉で毅然とやり取りをするリァンを見ていて、漠然とあこがれを持ってしまったのだという。
リァンは嬉しそうな笑顔を作ったが、ファナは少し意地悪そうに笑みを造った。
その笑顔がかつて「舌を引っこ抜くわよ」といった時の笑顔と同じだったので、リーフェは体をこわばらせた。
「西の言葉だけでいいの?」
ファナの質問にリァンもリーフェも目を丸くした。
「確かにザイードさんの隊を始め、うちは西の取引が多いけど、取引先は西だけじゃないのよ」
「ああ、そうだね。最近は南の情勢が安定してきたらしくて、南からの取引が増えそうなんだよね、もちろん北も」
話に入ってきたのはファナの夫のカドだ。
確かに暴動がおちつき復興が進んだ最近は南方系の旅人や客人を見ることが増えてきたと思う。
新たに住み始めて商売をしようとしている人たちや警備を買って出る人たちも多いのだそうだ。
「リァンは南や北の言葉はどうだい?」
「そうですね、南の言葉も北の言葉も教えてもらいましたが全部がわかるわけではありません。取引が増えるとこれから大変になりそうですね」
ファナの夫はリァンの言葉を聞いて急にニコニコとし始めた。
「そうか、そうか。だったら、リァンとリーフェに北と南の言葉を覚えてもらおうかな」
「旦那様??」
ファナ、リァン、リーフェの声が重なった。
その後、ファナの夫から紹介されたのは、北と南の商人たちだった。
リァンとリーフェに言葉を教える代わりに、店との取引を割安で行えるように交渉をしたら北と南の商人にとっても渡りに船だったようで、快く引き受けてくれたのだった。
ちなみにリーフェはファナの息子たちと一緒に西の言葉と計算を覚える時間も別途確保され、その話を聞いたときはさすがにひるんでいた。
だって、それ以外にもリーフェには、下働きの仕事以外にも、普段の言葉遣いの矯正や大店にふさわしいあらゆる面での態度、社交術などなど教わることをすでに通知されていたのだから。
その多くはファナやファナの師匠ともいうべき女性たちが役割を担うことになっていて、リーフェは女性たちに引き合わせれた時にはあまりの怖さに泣きだしそうになってしまった。
次回更新は2/29です!