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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
64/167

62 終幕8 よき報告を 

完結済作品。週2回更新中!

夜、集まった家族にヤンが婚礼式をあげると伝えると家族もホッとした様子であった。

「いい報告を聞けて嬉しいよ」

ヤンの報告を受けて父は静かに言った。少し涙ぐんだような声が聞こえてきた。

ファナはニコニコとして嬉しそうだ。

「母さんやうちの子たちを呼び戻す準備もしなくちゃね!」

「君の婚礼式だ。兄上も参加するだろうね。楽しみだな、ヤン」

カドが目を光らせるとヤンは喉を鳴らした。

「義兄上いらっしゃいますか?」

「あの人はあれで君を可愛がっていたから、呼べば二つ返事でくるさ」

「あれで…」

いじめられたとしかわからなかった。

甘えだと叱責され、無茶も言われ、やりたくないことも散々させられたが、根気強く指導をしてくれたのだけはわかっていた。

カドはちらっとリァンを視線でとらえた。

まあ、兄が興味を持っているのはリァンなんだけどね、というのはやめておいた。

西の反転文字、兄はあれを使って西以外の情報を集めていたらしい。

西の文字はそれ以外の地域では難解さのあまり使っていても怪しまれないようだ。

難解な分、教えるにも時間がかかり情報を兄一人でさばききれないのがどうやら難点だったらしい。

リァンが使えるとなればより情報を集めやすくなるだろう。

あの兄はリァンを手の内に引き込んで、絶対に離さないだろうと思うと少しだけヤンが気の毒になった。

ヤンも兄の手の内で働くことを意味するのだから。

「幸せにな、2人とも」

「兄貴」

「トランさん」

2人揃って笑顔を見せた。

つい先日までいつ壊れてもおかしくない雰囲気だったのに、穏やかに笑えるようになった2人を祝福した。

騒ぎの前のように穏やかに笑えるようになった二人を見て父は静かな様子でリァンに言った。

「リァン。ヤンだけでなく、ちゃんと我々を頼りなさい。自分を犠牲にしてはいけないよ」

「お義父さん…あの、その節は…」

リァンはお礼も謝罪もなにもしていないことにようやく気付き、あたふたとした。

「謝らなくていい。謝らなくていいんだ。そのな、うちの子どもたちは、ファナもトランもヤンも俺に似て血が湧きやすいみたいでな…君がいなくなって大変だったんだ…」

「すいません…その…」

「責めているんじゃないんだ…お前たちも睨みつけるな」

結果リァンを謝らせている父に娘と息子たちは鋭い視線を浴びせ、父は視線にたじろいだ。

言葉がうまく出てこない父親はさらにしどろもどろになる。

「むしろ相談もさせてやれず1人で背負わせてしまって、すまなかった」

父がリァンに対して頭を下げると娘も息子も娘婿も息を呑んだ。

リァンが屋敷に上がった時、父親がどんな表情をし何を考えていたのか正直誰も覚えていなかった。

もしかしたらヤン以上の怒りを滾らせていたのかもしれないと思い当たった。

「君は家族なのだから、なにも遠慮しなくていいんだ。それだけ覚えておいてくれ」

「お義父さん、ありがとうございます」

「だから、ヤンと別れようがトランとくっつこうが、隊商の旦那にくっついてこの町を出ようが、俺たちは君の決断を受け入れる」

「はい…」

リァンが静かに答えたが、その声は娘と息子2人からの苦言にかき消された。

「待って!父さん!俺と別れるってなに?今、婚礼式をするって報告したよね」

「ヤンと別れて俺とくっつくって、どっからその発想が出てくるんだ?」

「ザイードさんはリァンさんを連れて行こうとしているってこと!?どこから聞いたの?父さん!」

3人の怒涛の勢いに父は目を白黒させた。せっかくリァンと静かに話をしているというのに。

「お前たちはなんでもかんでも大騒ぎして・・・」

姉の疑問にゆらりとヤンが立ち上がった。

完全に目が座っていながら、ザイードの隊商が野営している方向に顔を向けた。

「あの人も俺がのした方がいいのか?」

「待て待て!!落ち着け!ヤン!!リァン!!ヤンを止めてくれ」

リァンはワタワタと立ち上がってヤンをぎゅうっと抱きしめた。

「ヤン」

「リァン、どこにも行かないで…」

「行かないわ。ずっとヤンと一緒にいる」

ヤンはリァンの髪を撫で背を撫でた。

ヤンの落ち着いた様子を見て、トランは姉と父にくぎを刺した。

「父さんも姉さんも余計なこと言わないでくれ」

「明日の朝ザイードさんの訃報が上がって来たら、ヤンの仕業確定だねえ」

「義兄さんも!!」

トランがキリキリと父と姉とニコニコ顔の義兄に余計なことを言うなとくぎを刺し、義妹に落ち着かせた弟を椅子に座らせたその時、ザイードが顔を出した。

「兄ちゃんと嬢ちゃんのいい知らせが聞けるって聞いて来たけど、あんたらはなんだかいつも楽しそうだなぁ」

ヤンの鋭い視線を受けたザイードはそれまで交わされていた会話を知ってか知らずかニヤリと笑みで返すとヤンは目を瞬いた。

家族が囲うテーブルに添えられた空いている椅子、リァンの隣に座った。


次回更新は2/15です!

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