61 終幕7 妻問ふ
完結済作品。週2回更新中!
「兄ちゃん、頼むから毎日順番でいいから連中の手合わせしてやってくれ」
ヤンはとある現場でザイードにそう言われた。
町の重鎮たちの耳にも入っていたらしく、朝と昼過ぎに隊商の連中との手合わせの時間を設けることになった。
ヤンと手合わせをしてギリギリまで殺気を出していると本気で殺されると思ったり、睨みつけた時の殺気で腰を抜かしたりする若い隊商の連中が増えた。
ヤンに倒された若い連中がきりきりと働くので、復興は思うように進んでいき、人々にも少しずつ余裕が出てきた。
「兄ちゃん、すげぇな」
町に残っている若い連中を次々に舎弟にしていくヤンにザイードは感嘆の声を上げた。
手合わせを見にきて、次々にヤンに倒される若い連中を見るのも最近では年配者の楽しみになっているようだ。
「あんたに言われた。守り切ってから『俺の女』って使えって」
「そんなことも言ったなぁ…」
「だから、俺はリァンを守るために誰にも負けない。誰にもリァンに手を出させない」
ニヤニヤして茶化してやろうと思ったが、前と変わらず真面目で正直なヤンの姿に逆に拍子抜けした。
「あぁ…この町に今いる隊商の若い連中は軒並み兄ちゃんの舎弟に入っちまったからな…必要な時に好きなだけ使いな。諜報でも武器の調達でもなんでも協力するぜ」
「俺は…」
ザイードの言葉にどこか引け腰のヤンにザイードは低く鋭い声を出した。
「せっかく身につけたんだ。生かせる時を見誤るなよ。嬢ちゃんには義兄さんからそのうち依頼が行く。この町もまだまだ不安定だし、どこで誰が狙っているかわからねぇ。あの能力、あの義兄さんたちが手放すわけねえだろ」
ゼノとカドのよく似た胡散臭い笑顔を浮かべる兄弟を思い出した。
恩義はあるとはいえ、自分だけならまだしも、リァンを巻き込むなんて、と思った。
正式な依頼というよりは、通訳や代書などそれとなくあの兄弟の手の内に絡め取られる気がする。
「う…ますます俺がリァンの側を離れるわけにいかない」
だから、それも義兄さんたちの手の内なんだって、と言いかけてやめた。
「俺は嬢ちゃんのために、若い連中は兄ちゃんのためにいくらでも力を貸すからよ」
「はい…」
ザイードはヤンの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「兄ちゃんの根っこの部分が変わってなくて嬉しいよ、俺は。今度こそ嬢ちゃんを頼んだぞ。ちゃんと幸せになれよ、2人で」
「はい、必ず…」
そして、義兄との調整の内容を現場の長宛の信書にしたためたリァンと連れ立って、ヤンは現場にと向かっていった。
互いに顔を見合わせたあと穏やかに微笑み、自然と互いの指は絡まり、寄り添い歩く二人をザイードや隊商の若者、手合わせを見に来た人たちが安心した様子で見送った。
「あの2人がああやって寄り添って歩いているのを見ると安心しないかい、ザイードさん」
かけられた声に振り替えると、穏やかな笑みを浮かべたカドがいた。
「ああ、そうだな。やるこたやってるだろうに、この前までのぶっ壊れそうな雰囲気はこっちが気ぃ使っちまうよ・・・」
「今夜、少し時間があるかい?どうやら、いい報告を聞けるみたいだよ」
ニコニコとするカドの笑みを胡散臭いと思いながらもザイードは夕方合流すると約束した。
その日の朝、起き抜けにリァンを腕に抱いたままヤンは言った。
「俺と夫婦になって」
「え?」
寝起きの寝ぼけた頭では何を言われたか理解できず、リァンは問い返した。
「ちゃんと婚礼式をやろう」
「ヤン」
「ケジメをつけたい。リァンは俺の女だって。これからも俺が守るって。俺と幸せになるんだって」
ヤンの言葉が嬉しかった。嬉しかったけど、リァンには引っかかるものがあった。
これがヤンを新たに傷つけることになるかもしれないと思った。
「嬉しい…けど…」
「けど?」
「私、子どもができるかわからない…すごくいっぱい薬を与えられた。途中で薬がなくなってもあの男の子どもはできなかった。それは良かったけど、これからもできるかわからない…」
リァンは申し訳なさそうに辛そうに目を伏せた。
流してしまった子どものことを思い出したのかもしれない、とヤンは思った。
仕方のないこととはいえ、屋敷でのことを思い出させてしまったのは誤算だった。
ヤンはぎゅうっとリァンを抱きしめた。
「リァンとの子ども欲しいけど、俺はリァンがいればいい。リァンが俺と幸せになるために、俺と夫婦になって」
「うん、私とずっとずっと一緒にいて」
「もちろん」
口付けを交わしていると、ヤンがリァンの裸の背を敷布に押さえつけた。
リァンの裸の胸が朝の光の下、ふるりと揺れて、ヤンはゴクリと喉を鳴らした。
「ヤン?」
「子どもができるか、今、試してみよう」
ヤンはニヤッと笑って、リァンがその笑みにドキリとしているうちに、ヤンはリァンと体を重ねてきた。
次回更新は2/11です!




