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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
61/167

59 終幕 5 手合わせ

完結済作品。週2回更新中!

リァンには手を出さない一方、ヤンに絡んでくる隊商の連中が増えた。

リァンといった先々に西の連中がいると、ヤンはしつこく付きまとわれて、手合わせを願われる。

統率している隊長たちが困った様子で、”相手してやってくれ”と言ってきた。

その間リァンの護衛が手薄になるとヤンが渋い顔をするが、

”ザイードたちと関係が悪くなるのも困るから頼む。お嬢ちゃんには誰にも指一本触れさせない”

と頭を下げてきたので、しぶしぶと受けることにした。

隊長とリァンの話が終わると、隊長に付き添われたリァンはヤンが手合わせをしているのを見たのだが、この前もそうだが全く以前のヤンからは想像ができないことだった。

以前のヤンは体格がいいから見た目で他の男がリァンに近づかなくなるには役立った。

しかし、リァンがを連れにきた護衛の男を殴ろうと胸ぐらを掴んでも殴れなかった。

それがいとも容易く複数人の男をのせるようになってしまったし、手合わせをして相手を威圧することもできるようになった。

”あの兄ちゃん、前からあんなに強かったのかい?”

問われてもリァンには”知らない”としかいえなかった。

黙って手合わせをしているヤンを見ていると声が上がった。

”おいおい、あいつ模造とはいえ刀を持ち出したら…”

隊商の1人が模造刀振りかぶった。

ヤンは怯むかと思いきや間合いを詰め、いとも簡単に模造刀を奪い、目にも見えぬ速さで相手の首に模造刀を当てた。

ヤンの目つきに隊長たちもゾッとした。

1人がヤンの背後から襲いかかったが、模造刀を水平に動かしてピタリと同じように背後から襲いかかった男の首元で止めた。

初めの1人がヘナヘナとその場で膝をついて崩れ、2人目は両手を上げて降参した。

少し遠目で見守っていた3人目と4人目も両手を上げた。

”あれは…東の技か…”

”ああ…そういう…”

ヤンの動きに見覚えがあったのか隊長たちは息を呑んだ。

ヤンは模造刀を手にリァンの元に戻ってきて、柄を向けて隊長たちに模造刀を返した。

「今日の手合わせはこれでしまいだ」

”ああ、悪かったな…うちの若いのが分別もなくて”

リァンを介してヤンに謝罪を伝えた。

ヤンは謝罪は不要とばかりに首を横に振った。

じろりと若い連中に睨みを利かせた一方で、リァンには優しい雰囲気でヤンは問うた。

「話は終わった?」

「ええ」

「この後はどこに?」

「えっと次は、二つ先の通りで…」

リァンは隊長たちに次の場所に行くことを伝えて、そのばを後にした。


なんとなくだが、よりヤンとの距離が少しだけ離れた。

「俺のこと、怖い?」

ヤンはその距離感に違和感を感じた。

最近は手を繋がせてもらえないことに苛立ちを感じつつもゆっくり行こうと気持ちを切り替えたところだったのに。

夜を共に過ごし体の関係もあるものの手をつなげないことのバランスの悪さを感じてしまうが、何かを言えば責めてしまいそうな気がして言えなかった。

本能的なものはどうしようもないけど、リァンが嫌だというなら抱かずにもいられると思う。

お互い義務のようで心が伴っていないと感じることの方が多くて、以前みたいに好きだという感情だけでその関係にふけるわけにはいかないとわかっていても悲しくてむなしくなった。

全てを飲み込んだとしても、手も握れないような距離で歩かれたのであれば、黙っていられなかった。

リァンはヤンの言葉に足を止めてヤンを見つめた。

ヤンのリァンを見つめる目も表情も何一つ変わらないのに、以前とは違う雰囲気と違和感が2人の間にあった。

リァンはすっとヤンから目をそらし、ヤンはこれから発せられるのはリァンの本心ではないとわかった。

「怖いじゃなくて、ヤンがあんなに強いなんて知らなかったから…」

「死にかけたあとに、訓練を受けた」

「そうだったのね」

それでも2人の距離が縮まらなくて、ヤンは路地にリァンを引き込んだ。

壁にリァンの背を押し付け囲うように両手をついた。

こんなに好きでこんなに大切なのに、もう無理かもしれないという思いがよぎった。

「怖いなら怖いって言ってくれ」

「…ヤンが知らない人みたいで…」

リァンに目を見つめられて、ヤンは耐えきれなくて目を逸らした。

「死にかけて、訓練受けて、リァンに軽蔑されそうなこともいっぱいした。俺は怖い。リァンを傷つけそうで、壊しそうで、怖い。リァンに軽蔑されるのも嫌われるのも怖い」

項垂れたヤンの頬をリァンは優しく撫でた。

「辛かったでしょ?」

「え?」

「だって、ヤンは優しいから。私じゃなくても誰かに軽蔑されそうなことをしなきゃいけないなんて、ヤンが一番傷ついたでしょ?」

「辛かった…怖かった…」

声に出してみて初めてあの日々は辛かった、怖かったと感じた。

甘えだと散々言われて割り切ろうとしたけど、苦しかったと。

「人を殺す以外は全てやった…この汚れた両手でリァンを抱くなんて考えたくなかった…」

リァンはヤンに腕を伸ばして抱き寄せた。


次回更新は2/4です!

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