58 終幕 4 護衛と問題と
完結済作品。週2回更新中!
リァンは朝、目が覚めて、男の腕に抱かれていることに緊張した。
寝顔のヤンを見てほっと息を吐き出した。
安心したようにヤンの裸の胸に擦り寄った。
それを合図にヤンはリァンを抱きしめ口付けをした。
啄むように、食むように、リァンがこの感触になれて安心してもらえるように。
リァンもその口付けには応えてくれた。
義兄が言うように少しずつゆっくりと関係を取り戻そうとヤンは思った。
「俺、今夜もこっちに来ていい?」
身支度をしているヤンの申し出に昨夜の出来事を思い出してリァンは頷いた。
あれ以来、毎晩のようにともに過ごしているが、ヤンの熱に触れるたびに離れるのが寂しくてならなかった。
「ずっと一緒にいて…」
「相談してくるよ。一応天幕周辺の警護もしているから、夜中の警護に配置されることもある」
リァンは目をぱちくりとさせた。
ヤンみたいな優しい男が、緊急事態とはいえ警護の任に就くのは意外な気がするのだ。
「話すと色々と長くて…でも、なるべく夜は一緒にいるように配置してもらうよ。天幕避難生活で問題も起こり始めているから、夜一人にするのは心配なんだ」
復興と同時に起こる問題の対応に義兄や父をはじめとした町の有力者が四苦八苦しているのだそうだ。
「それで、もしリァンが少し他の人たちと顔を合わせて大丈夫そうなら、義兄さんが手伝ってほしいことがあるって」
リァンは少し戸惑ったが、自分はどうやら死んだことになっているしと思って頷いた。
身支度を整えてヤンと一緒にファナに渡された朝ごはんを手に義兄の元を訪れた。
「やあ、リァン!!体調がいいならぜひ手伝ってほしいんだ!」
そう言ってリァンに飛びついてきそうなのは、目の下にクマを作った義兄だった。
復興は順調にもかかわらず、問題が山積みで町の重鎮たちと交代で休むものの、ままならぬ様子だった。
「復興に西の隊商が協力してくれているんだけどね。言葉がどうにもうまく通じなくてね。ザイードさんみたいに通じればいいんだけど、みんながみんなそうじゃないからさ」
そう言って、天幕の中にいた義兄もその他の面々も西の面々もぐったりだいぶストレスが溜まってそうだ。
「そう言うことでしたら」
「助かるよ、リァン!現場に行ってもらう際にはヤンを護衛につけるからね。ヤン。リァンを頼むよ」
「はい!」
2人は顔を見合わせた。
昼間はずっと一緒にいられそうだと思い嬉しそうなヤンに対し、リァンは少し複雑そうに目を伏せた。
その日はその場でカドや町の重鎮の話をリァンが通訳して、西の面々に説明をした。
翌日からカドの依頼を受け取り、依頼先に向かう二人の距離感をみて、カドはうーんとうめいた。
ヤンとリァンが町のあちこちを連れ立って歩いている姿が見られて事情を知っている人たちはほぉっと息を漏らした。
とは言え、街を整備している現場に若い女性が現れるため、浮足立つものがいるのも事実だ。
一度など資材の運搬を協力してくれる隊商の若い連中数人にリァンが絡まれて、騒ぎになった。
”姉ちゃんもそろそろ男が恋しいだろ、相手をしてくれよ”
声をかけてきた男たちをヤンとリァンは揃って無視をした。
男たちはリァンの腕を乱暴に引っ張り、ヘラヘラ笑って数人で資材置き場の陰にリァンを引きこもうとしたのだ。
リァンの腕が掴まれた瞬間、腕をつかんだ一人をヤンが、一言も発しないうちにいとも簡単にのしてしまった。
その後、ヤン一人に対し数人でかかってこられたが、顔色一つ変えずにヤンは全員を叩きのめしてしまった。
その報告はすぐ町の重鎮や各隊長に届き、似たような話があちこちで未遂を含めると警備が追い付かないくらい発生しているという話を聞いた。
リァンが絡まれた話をきっかけに町の重鎮たちの前に女たちが集まって騒いだ。
未遂で終わったものの似た経験があったり、実際の被害にあったりと様々だ。
ファナが彼女たちから話を回収し、目の前で起こった騒ぎを収拾しようとした。
「金取っていいならそんな男どもはまとめて引き受けてやろうじゃないか」
「相手さえいれば金になる商売だからね」
「素人さんに手を出させないように区分けをしたらいい」
そう言ってくれたのは娼婦街の姐さんや娼館の娼妓たちだった。
町の重鎮たちが彼女たちに「よろしく頼む」と平伏したのは言うまでもない。
すぐさま場所が整えられ、娼婦街が再開されるという通達が出た。
と、同時に決められた場所以外での騒ぎを起こすようであれば、いかなる理由があっても処罰の対象であると。
見せしめがてらにリァンや他の女性に絡んだ連中は、話を聞きつけたザイードとザイードの隊商連中に砂漠流のお仕置きを受けることになった。
次回更新は2/1です!




