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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
58/167

56 終幕 2 初夜

完結済作品。週2回更新中!

天幕を出て護衛の男を見送る時にファナはちらりとつながれていないヤンとリァンの手を見た。

「彼にとってもリァンさんは女神だったのかしら??」

言われてリァンは目を瞬き、武官の背に視線を移した。

「・・・さあ、どうでしょうか・・・」

死んだほうがましだと思いながら、屈辱の生活で生きながらえたのはそこに一本の道があったからだ。

彼の提案がなければ、今ここにもいないだろう。

でも、その提案を飲んだことが良かったのか悪かったのか今になったらわからなかった。

ヤンを突き放したあの日に死んでしまえばよかったと今更ながらに思った。

あの護衛の男を深く愛していたがゆえに死を選んだ元許嫁と異なり、なんで自分はこんなに浅ましいのだろう、と。

ファナはリァンの気のない返事に目をぱちくりとさせた。

武官が最敬礼をとる相手なんて、数えられるほどだろうに。

それほど護衛の男はリァンに感謝し、崇拝に近い気持ちも抱いたのであろう。

「…ほんと、リァンさんは悪い女ねぇ」

「もう!ファナ姉さんには負けます!」

「あら、多少は自覚があるのねぇ」

リァンの気持ちを知ってか知らずかリァンを抱きしめたファナはニマニマと茶化した。

ファナと一緒であればリァンは以前とも変わらぬような笑みを見せるがと思って、ファナはちらりとヤンを見やった。

つながれた手を長椅子から立ち上がる際に離されて、以降触れさせてももらえないヤンは少しイラっとしているようだ。

こちらは整理をつけるのに色々と必要そうだ、と早々に二人きりにすることにした。

「こればっかりは、2人で何とかしてもらうしかないわねぇ…」

2人と別れて、事の委細を報告するために夫の元に向かったファナは一人そう呟いた。


護衛の男とファナが立ち去るとヤンはリァンをいつもの天幕に引き込んできつく抱きしめた。

今更ながらに、あの護衛の男がいなければ、自分たちはここで抱き合うこともなかったのだと思った。

生きていればやり直しが効くとはいえ、なかなかに難しいものだとリァンもヤンも思った。

あの囚われの日々は思った以上に2人の関係に影響を与えるかもしれない。

1人で苦しむのか2人で苦しむのかわからないけど。

このままだとお互いに傷つけあってしまうかもしれない。

リァンがヤンと手すら握っていられないのがもはや答えのような気がするが。

ヤンは優しい。

すっぽりとリァンの苦しみ悲しみも辛さも何もかもを抱えてくれる人だ。

ヤンの優しさに耐えられなくなるのは自分だとリァンは思った。

「リァンの気持ちが落ち着くまでいくらでも待つよ、俺は」

「ヤン…優しくしないで。辛くなる…」

「なんで?」

「だって、私は…」

ヤンの腕の中にいながら囚われて以来の生活を思い出して、リァンは背を振るわせた。

望んだことではないといえ、あの日々に慣れていく自分がいたのも事実だ。

時にはあの男を自分から誘い、招き入れ、与えられた感覚に我を忘れ、気を失い、さらに求めたことだってある。

こんな自分を壊れもののように大切にしてくれる人に受け入れさせて良いものだろうか。

ヤンをもっと幸せにできる人がいるんじゃないか。

そんな思いが、ヤンが生きていたとわかって以来、リァンから離れない。


そんな気持ちを見透かしたようにヤンはリァンを抱く腕に力を入れた。

2人はしっとりと唇を重ね合わせた。

長く深く、一つになるように唇が重なった。

久しぶりの感触にくらくらとし、腰が立たなくなりそうだった。

2人で支え合うように抱き合った。

ヤンの熱を感じて思わず声が出た。

「ヤン…抱いて…」

「もういいの?」

ヤンに問われて頷いた。

ヤンはリァンがうなずいたのを見て色めき立ったが、リァンの目に宿った光におもわず言葉を失った。

リァンの気持ちが自分に向いてないとわかってしまった。

だが、リァンが望むならと心を決めた。


 屋敷から解放されて、月のものが来た。

正直安心した。

同じ天幕を使っているファナやレンカにも話をすると、少し区切りがついたような表情だった。

「よく頑張ったわね」

そう言って抱きしめてくれたファナの温かさは忘れられないと思った。


 ファナにはその夜をヤンと2人で過ごすことを伝えた。

察したファナは二人にとって必要なことだと受け入れてくれた。

「全部まかしちまいな、ファナ姉さんの弟に。どうしてもダメだったら、私と一緒に住んでもいいし、ザイードの旦那とこの町を出たっていいんだからさ」

レンカはレンカでそういった。ザイードの名が出ると思わなかったから目を瞬いた。

「連れて行ってくれるかな?」

「あんたの望みならね。でもファナ姉さんの弟はあんたがどんなに泣いても、叫んでも、あんたを抱く腕を緩めないよ。ちゃんと覚悟しておきなよ」

リァンがまだその覚悟ができないのをいるのを見て、レンカはリァンをからかった。

「男二人も手玉に取るなんて、ほんと悪い女だよ、あんたは」

そう言ってレンカはリーフェを連れて行ってくれた。


 その夜、天幕の中でリァンとヤンは2人きりになり、まるで初めてのようにぎこちなく愛し合った。

ヤンの優しさと熱に二人とも生きていてよかったとリァンは思った。

それと同時にとてつもない罪悪感に襲われた。

ヤンの胸に抱かれて、裸の背を撫でられてリァンは思い切り泣いた。


次回更新は、1/25です!

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