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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
55/167

53 side:ヤン 8

完結済作品。週2回更新中!

宴の日、ゼノ夫婦と同格の装いをしたヤンとユエは誰がどう見ても、新婚のおしどり夫婦のように見えた。

ヤンがユエを気遣い、ユエはヤンに寄り添い、2人で穏やかな笑みを浮かべている。

まるで悲劇の前のヤンとリァンのようだとヤンの家族は思った。

「万が一の時は任せたぞ、カド」

「兄上、無事のお帰りをお待ちしております」

ゼノは不敵に笑った。

カドとファナはヤンを見やった。

心配そうな姉には申し訳ないと思ったが、義兄とのみ目を合わせた。

「頼んだぞ、ヤン」

「はい、行ってまいります」

そう言ってユエの腰に腕を回した。



翌日の明け方ごろに帰ってきたヤンとユエはげっそりしていた。

ゼノは満足気ではあったが、ヤンは心配気な姉、兄、両親の顔を見ると泣き出しそうで、そのまま装いを解かずに部屋に引き篭もった。

「兄上、あれは?」

「根がまっすぐ過ぎて扱いにくいわ。人を傷つけたこともないのだろう。ただ、うまくやってくれた。ユエもご苦労だった。ヤンはしばらく放っておけ」

「はい」

ユエも2人の前から辞した。

ヤンが手に入れた武器の情報はと言うと、うまくゼノとカドの支配下に置くことができた。

ザイードの手による追加情報によると、いささか散財と退廃ぶりが目に余ると言う親書が送られていて、町で一定規模の軍を世話しきれなければ、鎮圧するのも難しいと判断が下り、様子を伺っているそうだ。

しかし、地方官への親書はライやライの手のものが止め、そのようなことになっていると地方官は知らされてもいなかった。

送り込んだ武器だけをなんとか引き上げようと画策したが、目的地に着く前に盗賊に襲われ散逸したとの情報を流した。

これにはユエを手籠にしようとした男が情報を流すのに一役かった。

ユエが未遂であろうとも手籠になりそうなところを見かけ、目のすわったヤンの有様をゼノの手のものが話した時に、ゼノとカドは流石にゾクっとした。

「命までは取りませんでしたが、あの男は、いえ、私も彼に逆いたくないですね」

そう言って報告を終えた。


「ヤン」

「鍵はかかっているはずだ」

「こんなもの子供騙しよ」

寝台のヤンの隣りに腰をかけて、ユエはヤンを抱きしめた。

「俺は…こんなんじゃ彼女を抱きたくても抱けない…」

「誰かの命を取ったわけじゃないわ」

「ユエにだって好いた男がいるのに、俺が初めて抱いたなんて…」

ヤンは辛そうだ。

本当に優しい人だな、とユエは思った。

そして、男に手籠にされようとした時に恐怖のあまり助けに来たヤンを「ライ様!」と呼んでしまったことを後悔した。

手籠にしようとした男は気づかなかったようだが、ヤンが一瞬目を見開いた。

男に手籠にされそうになり助けを求めたユエの姿はヤンの傷を深く抉った。

深く抉られた傷で我を忘れ、随分乱暴なことをしたと気づいた時には、ボロボロにした男がヤンに跪き哀れにも許しを乞うていた。

ヤンの足元についたであろう男の指を力の限り踏みつけ踏みにじり、男が忠誠を誓うようにヤンの履き物に口付けをした後だった。

そんな男から情報を聞き出すのは簡単だった。

ヤンが単語を発するだけで、必要なことも余計なこともなんでも口にした。

「好いた男と結ばれないことも結ばれてはいけないことだってあるのよ」

ユエはポンポンとヤンの背を叩いた。

「あなたは優しかった。今も優しい。それで十分よ。もう直ぐ彼女をその腕に抱けるんだよ。あんたの手は汚れてない。彼女を癒せるくらいあんたは優しい」

ヤンの腕がユエの腰にまわり、ぎゅっと抱きしめられた。



次回更新は2024/1/14です!

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