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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
50/167

48 side:ヤン 3

完結済作品。週2回更新中!

リァンを知るファナ、トラン、カドの顔が話を聞けば聞くほど曇った。

自分たちもリァンに守られたのだと知った。

囚われたリァンがどれだけの屈辱を受けているのか、想像はつくものの考えたくもなかった。

「俺は何をしたらいい?」

静まり返った部屋の中で、ヤンが問うた。

「まず、体を万全にしろ。話はそれからだ」

「わかった」

「体が万全になっても勝手に町には戻るな」

「・・・わかった・・・」

ヤンが答えるとライはファナ、トラン、カドを向き直った。

「町に戻ったら、この小僧は死んだことにしろ。葬儀を行い、墓を建てろ。そして、以後事態が動くまでお前たちとこの小僧の接触は禁止する」

ファナとトランは息をのんだ。

カドは兄と顔を見合わせ、肩をすくめた。

「この甘えた小僧は私が引き取って、鍛えなおしてやろう。カド、ファナ、トランに任せておくと甘えグセが治らず、計画に支障がでかねん。弟の思うツボなのがきにいらぬが」

「俺の手のものも見張りに付けよう。言うことを聞かぬようなら物理的に縛り上げる」

「兄上、ライ殿。感謝申し上げる」

カドは静かに二人に頭を下げた。

「カド様!!」

「義兄さん」

ファナとトランが抗議の声をあげた。

カドは低く冷たい声と鋭い視線をファナとトランに向けた。

「ファナ、トラン。最善の道を選べ。それに、ヤンに関しては我々も甘やかしすぎた」

「それでも!」

「ファナ、我々はこの戦に勝たねばならぬのだから」

そういうとファナは言葉を詰まらせた。

「う…わかりました…」

「トランもいいね?」

「はい…」

それから揃ってヤンを見た。

姉と兄は心配そうに、義兄とその兄は決意を持っていた。

「ヤンもわかったかい?」

「わかりました」

義兄とその兄、ライが今後のことを話し合うためかその背をヤンに向ける前にヤンは口を開いた。

「お願いです。俺に力と知恵と判断力をください。リァンを助け出して、その後彼女を守って、命を落とさずにすむように」

「ヤン」

「そのつもりでいる。お前は私の手の内で働いてもらおう。少し汚いこともさせる。お前の性格上難しいだろうが、そこは割り切れ」

「はい」

「戦い方は俺の手のものに教えさせる。まずは体調を万全にしろ」

「わかった。もう一つ、たまにでいい。リァンの様子を教えてくれ。生きている、病気をしていない程度でいい。奪われたが、彼女は俺の女だ…生きている限りこの手に取り戻す」

ライはヤンの強い思いに目を瞬いた。

女が乱暴されている姿を目の前で見せられれば、今まで同じ目に遭ってきた男はほぼ気が狂い、女を責め、女を捨てた。

あの地方官という男はタチが悪くて、男に捨てられた女に興味が失せ、そのまま捨て置くのだ。

女たちにいくらの見舞金を総額で支払ったか覚えていないが、乱暴され、好いた男に捨てられた女の多くは自死を選んだ。

自身のかつての許嫁を思い出した。

「そうだな。生きているくらいでよければたまに様子を教えよう」

ほとんどの時間をあの男に寝所で鳴されているなど聴かされているだけで苦痛だろうと言いかけてやめた。

「その娘と面識がないからいうが、この甘ったれ小僧よりも地方官の方がヨクなったというのはないのか?この小僧がここまで執着するならどれだけいい女か側におきたくなる。とは言え、女だって目の前の男がよくみえることもあろう」

イキリたつヤンを視線で抑え、カド、ファナ、トランを見渡した。ライは首を横に振った。

「もしあの娘が寝返っていたら、つけている手のものからすぐに連絡がくる」

ゼノはふむと一旦納得した様子を見せた。

「ゼノ様。あの子は私たちのためにこういう手紙を残していく子ですよ」

ファナは懐から一枚の紙を取り出した。

ライについていく前にライとヤンの目の前で書いた手紙だ。

その手紙を見てゼノはニヤリと笑みを浮かべた。

「なるほど。面白い娘だ。こんな小僧よりもはるかに私の手の内にほしい」

ゼノはチラリと全員の顔を見やった。誰もがこの手紙に仕掛けられたものを読み切れぬらしい。

一つ手助けしてやるかと珍しく甘さを見せた。

騒動が落ち着いたらなんとしてでもこの娘は手の内に入れようと。

「娘やお前たちには懇意にしている客人がいるか?」

問われてすぐにザイードを思い出した。

「ええ」

「その客人にもこの手紙を見せることだ」

ゼノは手紙をファナに返した。

ゼノは囚われた娘はあの人の娘だったなとリァンの父を思い出した。

「これはカドではなく君に託した方がいい気がするな。娘に会えたら渡してくれ」と言われて預かったものを懐に探った。

あの人亡き後、娘が育った環境は決して良いものではないだろうが、あの人の仕込みはうまく効いたようだと思ってニヤリと笑った。

「では、解散だ。こんなふうに集まるのは後にも先にもこれきりにしてほしいものだ」

ゼノはそう言って両手を打ち鳴らした。

「ヤン、体を大切にね」

そう言って今にも泣き出しそうな顔でファナはヤンを抱きしめた。

甘やかしてと怒られても可愛い弟だ。

「姉さん、兄貴。本当にごめん。父さんと母さんにも親不孝でごめんって伝えてください。あと、これを時期を見てリァンに返して」

ヤンはそう言って首から下げていたリァンの耳飾りの片方を姉に渡した。

「わかったわ」

「俺は死んだことになるんだろ?リァンには『俺は何があってもずっとリァンのそばにいる』と」

「ええ」

姉がヤンを離すと、兄がヤンをものいいたげに見つめた。

ヤンが子どものころと同じ光をたたえたのを見ると自分はつくづく甘いなと思う。

義兄の兄が言うようにヤンから離れないとヤンの甘えグセも自分たちの甘えさせぐせも治らないだろう。

「俺たちのことは何も心配するな。お前はリァンを取り戻す準備に専念しろ」

「ありがとう」

涙ぐむ姉の肩を抱く義兄と目が合った。

「私の兄は厳しいが懐の深い方だ。よく学び、身につけなさい」

「義兄さん、ありがとうございます」

ヤンが深く頭を下げ、3人は追い立てられるように部屋から退出した。

「では、私もこれで」

ライが言うとゼノは視線だけで頷いた。

「リァンを生かしてくれ。せめてもの支えになってあげてくれ」

優しいだけが取り柄の甘い男だとライは思った。

その優しさは彼女が解放された後の新たな毒になりかねないだろうと。

「承知した」

そう言って、ライはヤンをチラリとも見ずに退出した。

部屋にゼノと2人きりになってヤンは緊張した。

「さて、君の監視も含めて看護人をつける。まずは体を癒しなさい」

「わかりました」

「その後、体力をつけながら、戦い方を身につけてもらおう」

「はい」

「君がここを脱走しようとしたら捨て置くし、役に立たないと判断した時には容赦なく切り捨てる。君の生死など私にはどうでも良い」

「心得ました」

ヤンが深く頭を下げると看護人が入ってきた。

「では私もこれで退出しよう。あとは任せたよ」

看護人にそう言うとゼノは部屋から出ていった。


次回更新は12/28です!

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