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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
49/167

47 side:ヤン2

完結済作品。週2回更新中!

ヤンはファナの胸から離されようやく落ち着いたように息をついた。

トランがガシッとヤンの肩を抱きぐっと引き寄せられて抱きしめられた。

「まったく、無茶ばかりしやがって!少しは相談しろ!俺をちゃんと頼れよ」

「兄貴・・・ごめん・・・でも、俺・・・」

「わかってる。わかっているから・・・」

ヤンは声を殺して泣いた。

リァンが囚われて、自分がとんでもないことをしでかして、姉にも兄にもこの場にいないけど両親にもひどく辛い思いをさせたことだけはわかった。

「カド、ファナ。お前たちはその小僧を甘やかしすぎだ。勢いだけでほぼ自分の身を守れない男になにが守れる?」

「兄上。ヤンを甘やかし命の危険にさらしたのは私たちの不徳の致すところ。しかし、先ほども説明したように、娘が一人囚われただけの話ではすまぬのです。ここからは負けることは許されぬのです」

「わかっておる。いままでそれ用の準備をしてきた。だが、この小僧のせいですべてが台無しになることだってある。それをわかってここにこの小僧を連れてきたのか?」

「あのまま町に置いておくと義弟は自ら死ににいくようなことを繰り返すでしょう。我々の計画の足手まといになるため、こちらで監禁および再教育をしようと思い連れてきました」

義兄とその兄が言いたいことはわからなかったが、二人の間で見えぬ火花が飛んだ。

「それに、兄上が仰ったように私の妻とその弟はどうにもこの末の弟が可愛くて仕方がなく甘やかすことしかできぬのです。町で我々の手元に置いておくことは愚策にて、兄上にお預けしたいと存じます」

「この小僧が可愛くて仕方がないのはお前もおなじだろ?」

「可愛い妻と血のつながった義弟ですから」

カドがニヤリと笑うと、ゼノはふんと鼻を鳴らした。

カドとゼノのやり取りにゾッとした。ゾッとしたが、ヤンは兄と姉の服をぎゅっと握りしめた。

「姉さん、兄貴・・・リァンが・・・リァンを助けに行かなきゃ・・・」

「ヤン・・・」

甘やかすしかできないとゼノにあれだけ言われても、ヤンが可愛そうでファナは仕方がなかった。

「この男には遠回しに言っても伝わらぬようだ」

誰の声かわからぬ声が聞こえ、全員で声がした方を振り返った。

金属がこすれる音が響き、短剣の切っ先がヤンに向けられた。

「お前は何もするな、ということだ」

「あんたは!!」

リァンを連れ去った地方官の使者、娼館で助け出した時に自分を殴りつけ押さえつけた男、そして、屋敷にリァンを取り返しに行った時に自分を殴った男の一人だ。

「まだ彼女の方が周りがみえていて、良い判断をしているぞ」

「どういう意味だ」

「彼女はお前の命を救うために、身を差し出したということだ。そんなこともわからなければ、彼女を助け出してもどこまでも追いかけられるぞ、あの男に」

「リァンが、俺を・・・なら、なおさらリァンを助けに行かなきゃ」

男は短剣をしまうと、寝台からなお体を浮かせようとするヤンの頬を殴りつけた。

「きゃあ!」

「ヤン!」

姉と兄が慌てて弟を助けようとするが、義兄がそれを押しとどめた。義兄の兄は目を細めて成り行きを見守っている。

「彼女を助け出してもそのあと、二人して殺されたら意味がないだろ!!」

寝台に伏せ体中を走る痛みに耐えるヤンに男の言葉が降り注いだ。

「いや、すぐに殺されることはない。お前は薬を盛られあの男を際限なく求め、鳴かされ続ける彼女を見ながら死にたいのか?」

男の言葉がヤンの傷を抉った。

ヤンもリァンも何があったかは言わないから詳しいことは知らなかった姉、兄、義兄もあの日何があったのかを知った。

リァンを助け出してすむものではないと言われた。

根本的に解決しないかぎり、いずれ二人とも命を落としかねない、そういう状況なんだと。

「リァン1人に苦痛を強いるなんて、俺はヤダ…」

伏せた体を起こし、ヤンは涙ながらに訴えた。

「だったら、ここで騒ぐな。一刻も早い救出のためにお前は勝手に動くな。わかったか」

ボロボロと涙を流すヤンが可愛そうで可愛そうでファナはヤンを抱きしめた。

「悔しい・・・悔しい・・・なんで俺はリァンを守れない!?」

「それはお前に力も知恵も判断力もないからだ。お前にできるのはそうやって姉の胸に甘えて泣くだけだとわきまえろ」

男の容赦ない言葉がヤンに降り注いだ。

「ずいぶん義弟に容赦がないが、君は央都側の人間ではないのか?なぜ、義弟の命を救った?」

カドが冷たい言葉を男に投げかけた。

「俺はあの男、地方官を殺したい」

簡潔な答えに一同はシンとした。

「それに、俺をこちら側に引き込んでおくことはこちらの利になるぞ。なぜなら、あの男は皇帝とも血が近い」

「へえ。君、名前は?」

「ライだ。あの地方官とはいわゆる幼馴染のように育って、いままでの赴任も腐れ縁のように一緒にいる。手のものを央都に送っていくらでも調べると良い。この小僧に勝手なことをされると、俺の計画がとん挫するし、耐えている彼女の苦労が水の泡になる」

ライは地方官の護衛を務めていると言った。

「彼女はその甘えた小僧よりも随分と周りの見えている聡い娘だ」

そう言って、ライから見たリァンの姿を話した。

娼館で乱暴されながらも、何とか逃げ出そうと知恵を絞っていたこと。

2度3度と甘んじて乱暴を受けたのは、地方官がヤンやその家族の命を盾に脅したこと。

迎えに行ったとき、自分はヤンに殴られればヤンを殺してリァンを地方官の前に連れてくるように命じられていたこと。

リァンが少しでも逃げるそぶりをすれば、ヤンやその家族をとらえ、リァンが犯されている目の前で殺すと命じられていたこと。

ライが何者かわからないため、怒りをたたえながらも静かに話を聞いていたこと。

ライが地方官を殺したいと知り、協力することを選んだこと。

目的達成のために地方官を篭絡することに成功したこと。

自分の感情を殺し、それがどんな屈辱的なことであっても、妖艶に地方官をたぶらかしている、と。



次回更新は12/24です!

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