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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
46/167

44 望みがかなうとき 3

完結済作品。週2回更新中!

翌朝、地方官は寝台の上で妙にすっきりした気分で目が覚めた。

今までにない心地よさだった。

そして、彼は思う。可愛い小鳥を鳴かせたいと。

しかし、いつもいたはずの小鳥は腕の中におらず、腹立たしい思いで寝室の扉を開けた。

そこにいたのはいつになく質素な格好をしたリァンと護衛の男だけだった。

リァンの耳には黒っぽいガラスのイヤリング、首に螺鈿の首飾り、胸元には色ガラスのブローチが光る。

唇は玉虫色に光を帯びた。

寝室から飛び出した地方官を憎しみのこもった目つきでにらみつける。

その目つきに彼の可愛い小鳥が拗ねていると勘違いし、彼はリァンの機嫌を取るように隣に座り優しく肩を抱こうとした。

リァンはその手を叩き落とした。

地方官はあたふたとリァンの機嫌を取ろうとするが、リァンは立ち上がり、軽蔑の目で地方官を見下した。

その目が地方官の劣等感を刺激した。

リァンを再び支配してやろう、組み敷いて薬を盛って鳴かせればいくらでも自分の自由になると考えて、リァンにとびかかろうとしたところを護衛の男が剣を突き付けて静止した。

「な・・・何をする!!」

ばたんと音を立てて入ってきたのは、屋敷の使用人たちであった。

「こいつらを・・・こいつらを・・・!!!」

と叫んでも誰も地方官に与しなかった。

地方官を縛り上げたところに文句をいいながら入ってきたのは、リァンの敵の男である。

「地方官殿!!」

男がただならぬ様子で逃げようとしたところを別の護衛の男が捕まえた。

リァンはつかつかと寄り、仇の男を見下した。

「お前だけは許さない」

凄みのある声だ。

「お父様を殺し、お母さまを辱め、私の夫を殺した男」

「夫?・・・地方官殿はそこにいるではないか!!」

醜く叫ぶ男にリァンは高笑いをする。

「あの男が??」

「あれだけご寵愛をうけていてなにを!!」

「寵愛ね…ただの屈辱よ」

リァンは懐から小型のナイフをだし、仇の男の頬にあてる。

「なぜ?なぜ私の夫を殺したの?」

「あの男が私を殴ったからだ。せっかく薬の残ったお前と天上の快楽を味わえると言ってやったのにな!!」

「それだけ?」

「あの薬はいいぞ、どんなに深く何度も交わりを持っても孕まぬし、かりに孕んでも流れる、そして、天上の快楽を味わえる、最高の薬じゃないか!!」

リァンの奥歯が鳴る。ひどく憎しみのこもった目つきで、仇を見下ろし、持っていたナイフを振り下ろす。

仇の太ももに刺さったナイフに仇の男は悲鳴を上げた。

「そうか、お前か。お前のせいか!!」

リァンは悲痛の叫び声をあげた。

ヤンとの子どもが流れたのは、再び地方官に差し出された後だった。

薬を盛られながらも地方官を篭絡することに成功したあの日、腹部の痛みとともに流れたのだ。

その後も地方官に薬を与えられ鳴かされながらも、亡くした子とヤンを思い出し、何度も何度も詫びたのに。


邸宅で爆破音が響いたのはその瞬間だった。

予定より早い、暴動が起こったのだ。屋敷の者たちも慌てだす。

「その男を差し出して!!私はこの男を!!」

地方官は最後の最後の憐れみをもらおうとリァンに懇願した。


あんなに愛し合っただろう

あんなにかわいがっただろう

あんなにお前も私を求め、それに応えただろう


その懇願にリァンは艶やかな笑みを向けた。

見ていたものが全員ゴクリと喉を鳴らした。

地方官が懇願を受け入れられたと安堵したところ、笑みを消しこう言った。

「お前なぞどうでもいい」

地方官の表情が絶望に塗り変わった。

ねっとりと絡みつくような視線を爪ではじくようなしぐさでぶったぎり、顎で示すように護衛の男にさっさと行くように促した。

最後の最後までリァンに縋りつくような視線をよこしたが、その後視線が合うことはなかった。


リァンが振り返ると仇の男は足を引きずりながらリァンにとびかかってきた。

「あの男が、お前の父親が憎い!妻も薬を盛ってやったのにつまらん!お前もだ!屈辱でもただただ寵愛されておればよかったのだ。お前の夫もだ!私を殴るからだ!!お前を取り返しに来てぼこぼこになった後、女を送り込んだ!毒を仕込んだ!!最後に女といい思いをさせてやったんだ!!感謝しろ!!」

リァンは仇の男にのしかかられ、一瞬のうちにその懐から出したなにか液体のようなものを口や顔にかけられた。

吐き出したものの、喉から全身が熱く、特にかけられた顔が熱くなる。

血が沸騰した。

声にならない悲鳴が口から漏れた。仇の男はゲラゲラ笑いながら逃げていった。

リァンは屋敷の者に支えられ、体を起こし、げほっと喉を鳴らすと大量の血を吐いた。

屋敷の者が質素な布をリァンにかけ、抱え起こし立ち上がらせると、屋敷の裏口へと案内した。

「行ってください。迎えの者が来ていますよ」

「あの男を!!」

リァンが叫ぶように言うが、その声はただ吠えているようだ。

「この混乱の中、あの男にもたくさんのものが恨みを抱えています」

引きずるように連れ出された先にいたのはザイードだった。

「嬢ちゃん!!無事か!!」

「あの男を殺さなきゃ!!!」

普段だったらリァンに触れられもしないザイードが仇の男を追いかけようとするリァンをがっちりと抱きかかえる。

「放して!」

「ダメだ!」

「私の望みをなんでもかなえてくれるんでしょ!!」

「それでもだめだ!!!」

ザイードは逃れようとするリァンをがっちりと抱きかかえる。腕の中でリァンが声をあげて泣いた。

「あの男のせいで!!あの男のせいで!!お父様もお母さまもヤンもあの子も!!」

そのあとは声にならず、リァンは叫ぶように泣いた。


住民の暴動は地方官の首をはねたことでいったん終わった。

リァンのいた屋敷は暴徒に踏み込まれ、残してあった調度品、アクセサリー類、衣装などはすべて持ち去られ、めちゃくちゃにされた。

地方官の小鳥の生死は不明だったが、地方官と並べて殺されたという噂が立ち、誰もその真偽を確かめようとはしなかった。

地方官の小鳥は最後の最後まで悪びれることなく、男を誘惑し、高笑いをしていたという話がまことしやかに流れた。


次回更新は12/14です!

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