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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
40/167

38 希代の悪女 1

完結済作品。週2回更新中!

翌日、リァンはザイードが連れてきた1人の女性と1人の少女を見て目を白黒させた。

応接間にはリァン、護衛、ザイード、年かさの女とリーフェという少女だ。

「本日もご機嫌麗しゅう。昨日話しておりました無聊を慰める小鳥をお連れいたしました。こちらの女はレンカといい、芸事も得です。話し相手だけではなく、女性を魅惑的に見せる服装や飾り物など非常に趣味よく選ぶので、地方官殿を魅了する服装の相談もできます。また、こちらのリーフェは残念ながら、言葉を話すことができませんので、お話相手には難しいかもしれませんが、手元に置いておけば様々な手伝いもさせられるためお連れしました」

レンカと名乗る年かさの女は宿屋にいたときのけだるく蓮っ葉な様子ではなく、如何にも芸達者な艶やかな女性である。

リーフェはなんとリァンが夜預かっていたこともある近所の娼婦の娘だ。

言葉が話せないというのは、ここでの設定だろう。


あの夜、リーフェに声をかけられたファナは動揺した。

こんな小さな子供が、と。

「うちの子たち、とくにリーフェはリァンに世話になっていてね。ここ最近の色々は子どもたちにも伝わっていてさ、リァンはそうじゃないって言っているのさ、うちのリーフェは。役に立つなら、連れてってくれないか?」

リーフェの母親が説明すると、ファナはリーフェの目を見つめる。

「あなたが行くところはもしかしたらここよりもずっとずっと危険なところよ、それでも行くの?」

リーフェは一瞬詰まるが、うんとうなずく。

ファナはうーんとうなりながら、「一晩考えさせて」と言ってリーフェも自宅に連れ帰ったのだった。


「まあ、隊長さん、うれしいわ。きれいで色っぽい小鳥と小さなかわいらしい小鳥を連れてきてくださったのね。女だけで話がしたいわ。しばらく待っていてくださる?」

「かしこまりてございます」

ザイードは頭を下げる。

「聞き耳を立てるものがいないか注意してね?」

怪しく護衛に言うと、護衛は周囲を見回した。

リァンはすくっと立ち上がり、ちょいちょいとレンカとリーフェを手招きし、隣接している部屋に入った。

そこはほぼ使うことのないリァンにあてがわれた私室だ。

寝台と鏡台と小さなテーブルとそこに合わせた椅子があるだけの質素な部屋だ。

「姐さん、どうしてここに?」

「あんたもこんなことになっちまって・・・」

レンカはリァンを力いっぱい抱きしめる。

リァンはレンカに抱きしめられながら、見下ろすとリーフェが涙をためていた。

「リーフェまで・・・」

リーフェは何も言わず、リァンの腰にしがみついた。

「リーフェはあんたがここをちゃんと出られるまで声を出さないってファナ姉さんに約束させられたんだ。じゃないと、舌を引っこ抜くって、ね。笑顔で言うんだから、ファナ姉さんはおっかないねぇ」

レンカがリーフェに片目をつむって見せると、リーフェはリァンの脚から離れて、口を押えてコクコクうなずいた。

リァンはレンカから離れて、リーフェを抱きしめる。

「ありがとう・・・ありがとう・・・」

リーフェもきゅっとリァンを抱きしめる。


「ファナ姉さんから連絡がある。本当は手紙にしたかったが、今後のことを考えて言葉だけだよ」

レンカは昨夜から今朝のことについて話始める。

「リァンさんに伝えたいことはたくさんあるけど、今回の一つは、『国を滅ぼした嫦娥になりなさい』よ。もしリァンさんがわからなかったら何とかして後でザイードさんが説明するわ。今後の連絡方法だけど、工房の小間使いの少年に物売りに行かせるわ。これはリーフェの仕事にするから、ちゃんと声を聞いていなさい。いいわね?」

リーフェは深くうなずいた。

ファナはリーフェの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「私たちはこれからリァンさんを噂を使って希代の悪女に仕立て上げるわ。東の都から来た名門出身の優秀な官吏を骨抜きにするんだもののちの世では彼女は『ふしだらな毒婦』と呼ばれるだろうし、『傾国』とも呼ばれるでしょう。リァンさんには面白くない話で申し訳ないし、ヤンにも知られたら怒るでしょうけど、トランもうちの旦那様もザイードさんもリァンさんに骨抜きにされてたことにするわね。ふしだらな毒婦で傾国のリァンさんにはめいいっぱい散財してもらいましょう。無能な地方官に甘えまくってレンカさんやリーフェの分まで着物も飾り物も珍しい食べ物に動物だってなんだって願ったらいいわ。ザイードさんがなんでも持ってきてくれるわ!ザイードさんがいないときは仲介を入れて私が調達するわ。散財の影響は住民に増税というかたちで直ぐ返るわ。リァンさんというふしだらな毒婦に骨抜きにされた無能な地方官が民を苦しめれば、どうなるかわかるでしょ?」

ファナは人の悪そうな笑みを浮かべ楽しそうだ。

今にも高笑いしそうだ。

「リァンは、あのこは私たちのことを気遣ってくれると思うの。でもね、私にとったらもう可愛い妹だわ。家族が苦しめられて黙っていられないの。リァンが私たちのために地獄に落ちるというなら、私も付き合うわ。もちろん、天国に逃げ場所はちゃんと作っておくけどね。また会えたら女同士でちょっとした宴を開きましょ?」

それからファナはザイードと共に出ていこうとするレンカとリーフェの手をぎゅっと握った。

「あの子を、リァンをよろしくね。くれぐれも無理はしないで」

気丈なファナの目が潤む。

本当は誰よりも自分がリァンのいる場に駆け付けたいのだろう。

「最後にこれを。『ヤンはずっとあなたの側にいるわ』と」

そういってファナはリァンがヤンに残してきた片方のイヤリングをレンカに渡した。


次回更新は11/23です!

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