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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
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3 砂漠の最初で最後の町の娘3

宿屋での仕事を終えてリァンは井戸のところに戻ってきた。

若者は井戸に寄りかかり、ボーっとした様子で沈む夕日を眺めていた。

「ちょっと、ちゃんと生きてる?」

リァンが尋ねると、若者はリァンを見て人懐こい笑顔を見せた。

「女神様降臨だね?」

リァンは顔を赤く染める。

「そんなことより、はい!今日は賄いを多めにもらえたの!」

そういってリァンは若者に焼いた小麦の皮に肉や野菜を挟んだものを手渡した。

このあたりでは一般的に食べられていて、片手で食べられるうえに、挟むものは肉でも野菜でも魚でもいいということで賄いにもよく出てくる一品だった。

今日は隊商たちの金払いが良く、しかも女たちを相場より高く買ってくれたおかげで、いつもより豪華だった。

若者は手にした賄いにかぶりついた。肉や野菜が小麦の皮からはみ出ることも物ともせずに、バクバクと若者は食べた。

よほどお腹がすいていたのだろう。

リァンの手に持っている2つ目を若者に渡すと、遠慮なくそちらにもかぶりつく。

さらにリァンは下げていた手持ちのかごから、小麦の皮と肉をそいだ後の骨をだし、犬の前に差し出した。

「はい、あんたもおなかすいてるんでしょ?」

犬は目をらんらんと輝かせ、がつがつと食べ始めた。

がつがつと勢いよく食べる若者と犬を見て、リァンはふっと笑みを浮かべる。

なんだか気が抜けたのだ。

仕事中は姐さんたちや女将に色々させられるし、その気もないのに部屋に引きずり込もうとする客もいる、つまり気を抜けない。

聞いてもいないのに、姐さんたちはいつから色を売り始めたかを語るし、時にはリァンを嘗め回すように見て、「あんたもそろそろ始めたらいいのよ」といったかと思えば、「こんな胸じゃね、初物じゃなくなったら相手にされないよ」といってきたりする。

「ここは宿屋であって娼館でも娼婦街でもない」と言おうものなら、その何倍もの言葉が降ってくるのだから、何も言わないことにしている。

ちなみに家には誰もいない。

誰もいないから気を抜いてもよさそうなものだが、リァンが宿屋で働き始めてしばらくして亡くなった母親の気配が残っているようで気が抜けないのだ。


だから、リァンはひさびさに気が抜けたような笑みを浮かべたのだ。

無防備に一心不乱にたべる人と犬を見て、なんだか安心してしまったのだ。


若者は2つ目を食べた後にふぅと息を吐き、リァンから食料を奪ったかのように食べたのに今更ながら気づいたようだ。

「あ・・・あの・・・」

「おなか一杯になった?」

柔らかな笑みを浮かべているリァンを彼はぼうっと見つめた。

「君は本当に女神ではないの?」

リァンは若者の質問に声をたてて笑った。

「あはは!女神なんて生まれて初めて言われたわ。私はリァン。そこの宿で働いているのよ」

「あ・・・あの、僕はウェイ。こっちは犬のツェン」

ウェイと名乗った若者が視線を犬に投げかける。

ツェンと名付けられた犬は、視線を気にすることなく骨についた軟骨や肉をがりがりとかじっているところだった。

「僕らは旅をしていて、それで、その・・・」

ウェイはもじもじと視線を逸らすと、リァンは言った。

「お金がなくて倒れていたのね?」

ウェイはこくりとうなずく。

「あ、それで、君のごはんまで食べてしまって、ごめんなさい・・・ごめんなさいついでにどこか野宿できる所教えてもらえませんか?」

リァンははぁっと大きなため息をついた。

お金がなくて行き倒れているということは、当然宿に泊まるお金だってないってことだ。

野宿をするといったって、食べるものがなければ2-3日もすればまた行き倒れるに決まっている。

それに、何日か野宿をして無事なほどこの町は安全ではない。ましてや旅人なんて。

「一人で野宿なんかしてたら身ぐるみはがされるわ」

「いや、僕、ほんとに何も持ってなくて・・・」

ウェイはカバンを逆さまに振った。カバンからはなにも落ちてはこなかった。さきほど使った茶碗すらもだ。

「殺されておしまいだわ」

リァンが冷たく言うと若者はしょぼんとうなだれる。

「今夜くらいなら私の家に泊めてあげるわ」

「え・・・でも・・・」

ウェイは顔を赤らめる。

「私の家、娼婦街にあるけど、私は色は売らないわ。変な期待もしないで」

リァンはぴしゃりというと、ウェイは首を縦に振る。

「そんなことしない。絶対にしない。ツェン!!僕が彼女に襲い掛かろうとしたら僕を止めてね!!」

骨についていた軟骨と格闘していたツェンは突然のことにびっくりしてウェイとリァンに目を向けた。

「そんな甲斐性あるならみせてごらん」と言いたげな眼差しを一つウェイに送ると外れた軟骨をがつがつと食べ、満足そうに舌で口元をぬぐった。

それからリァンの足元につかつかと寄ると、甘えるかのように頭をリァンに摺り寄せた。

リァンはツェンに両手を伸ばし、首から耳にかけて軽くなでる。

「ふふふ・・・よろしくね。さて、私の夕飯と明日の朝ごはん分を市場で買って帰りましょ」

太陽ははるか地平線からわずかにのぞいているだけになり、すっかり闇に包まれている。

とはいえ、この町は決して眠らない。

行き来する隊商を迎えもするし、成金たちはこれ見よがしに娼館で夜遊びを始める。

カネがないけど女を抱きたいものは娼婦街に入っていくのだ。

町の市場は昼間よりも若干にぎやかさは減るが、夜遊びをする男や迎える女たちのために食事を提供する屋台は引き続き営業しているのだ。

この町は砂漠を渡る最初で最後の町、決して眠らない


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