37 護衛の男2
完結済作品。週2回更新中!
リァンの口から嗚咽が漏れる。ひどい話だった。この男は愛する彼女のために戦いもしなかったのかとリァンには大きな衝撃だった。
反面ヤンの愛情の大きさを感じた。
この男がヤンが「リァンは俺の女だ」というのは難しいだろうけど、すこしでも彼女に寄り添ってくれればよかったのに、と。
「君には死ぬよりひどい思いをさせるが、君の協力が必要だ。もし俺のためじゃなくて彼女のために、協力してくれるなら、俺がいいというまで、目を閉じていてくれないか?」
リァンは目元をぬぐい、正面に男を見据え、それから目を閉じた。
この男のためじゃない、と言い聞かせた。
正面の男の口から嗚咽が漏れた。しばしの時間が流れる。
男の許可をもらって、目を開けると、目元を赤くはらしてはいるが、無表情を取り繕った。
乗り物が地方官の住む邸宅についた。
乗り物から降りるとき、男は言った。
「わかっていると思うが、奴は人の嫌がることが好きだ。おびえた女が何よりも好物だ。感情のない女や従順なだけの女は逆に嫌いだ。君ができるのなら、初めはおびえていろ。少しはいやだと抵抗しろ。そのあと・・・何度も凌辱された後になるだろうが、少しだけ甘えて見せろ。『旦那様』と甘く呼びかけろ。それで奴は篭絡できる。奴が篭絡できればただただ甘えておけばいい。そのあとは、君が寝室から解放された後にしよう」
使者の男はその後、無言のままリァンをつれて屋敷に入った。
リァンは驚いた。自分が幼い日々を過ごした屋敷だったからだ。
とくに幼いころの面影はないものの何の因果だろうと。
男が地方官の謁見室にリァンを連れて入り、地方官の前にひざまずかせる。
謁見室でリァンをみると地方官はニタリと笑みを浮かべ、演技をしなくても背筋がゾッとし、目が潤む。
地方官は嬉しそうにリァンに近づくと、指をリァンの顎にかけた。
リァンが地方官から目をそらそうとすると、涙が零れ落ち、それを見て地方官は舌なめずりをした。
地方官はリァンの顎から、頬、耳元、首筋と怪しげに指を走らせる。
おびえていた彼女の口からかすかな声が漏れると、楽しげだ。
「相も変わらず良い声だ・・・私のために鳴けるか?」
「夫が待っております・・・帰してください・・・」
演技でなくても声は上ずった。
「私のためだけに鳴け」
そういって謁見室の裏からつながっている寝室に連れ込んだ。
そこから、朝も昼も夜もわからぬ時間が続いた。
薬を盛られているのもわかったのだ。薬が盛られたのはわかったが、体は意識に反して、地方官の求めに従った。
朝も昼も夜も甘く鳴いたのだ。
数え切れないほどの凌辱を受けた後、リァンは寝台にうつ伏せになりぐったりした中で男の言葉を思い出した。
リァンを見下ろす地方官の目からなんとなくリァンへの興味を失っているような気がしたのだ。
「・・・つまらぬ・・・」
そういって地方官が寝台を降りようとしたところに指を伸ばし、地方官の指と絡めた。
地方官が寝台から降りるのをとめたのを感じると、地方官と絡めた指に少しだけ力を入れる。
地方官の視線がリァンの乱れた髪がまとわりつく肌に移ってきたことを感じた。
少しだけ首をもたげ、悩まし気に唇を開く。かすれた声でつぶやく。
「旦那様・・・」
地方官は急に甘いしぐさで、リァンの唇を指でなぞった。
「私を旦那様と呼んだか?」
とろんとした目つきで、地方官を見つめ、リァンはこくんとうなずく。
そのまま何も言わずに地方官の指や手に頬を摺り寄せた。
軽く地方官の指を唇で食み、舌で指をなめる。
しばらく怪しげに地方官の手指とリァンの唇の戯れが続いた。
地方官の指先がリァンの首筋を這うと、甘い吐息が唇から漏れた。
誘うような目つきで地方官を見上げると、地方官の唇が「愛い奴」とつぶやいた。
その日、リァンの腹部に鋭い痛みが走った。
護衛の男はリァンが寝室から解放された後に面通しさせられた。
地方官はあざけるように「男としての機能を失っている」と説明し、リァンが「まあ」と恥ずかし気に目を伏せると、異様なまでの可愛がり方をみせた。
護衛の男とリァンの目があうと、驚いたような視線をよこす。
どちらもこんなにうまくことが運ぶとは彼も思わなかったのだ。
「あのとき、君の手練手管には感心した」
護衛の男はリァンにいう。リァンはふるふると首を横に振る。
宿屋や娼婦街の姐さんたちが話していたことをやってみたらうまくいってしまったのだ。
リァンもこんなにうまくいくとは思わなかったのだ。
リァンを可愛がっているからこそ、ザイードが明日訪問することも許したし、小鳥を連れてくることも許した。
ザイードならリァンの言いたいことをわかってくれたと思うし、ザイードがわからなくてもファナなら汲み取ってくれそうだ。
ヤンと婚礼式もしていない赤の他人のような自分を心配してくれているファナは何を考えているのだろうと思った。明日少しでもわかればいいな、と。
するりと自分の下腹部に手を当てると、そこには宿った熱も息吹も感じられなかった。
気づいた後、ひどいことが多すぎてヤンに話す間もなかったな、とリァンは思った。
話したところを想像するとヤンはいつも嬉しそうしていた。それから、まだ動きもしないのに息吹を感じようとリァンの下腹部に手を回すように後ろから抱きしめる。
出産のときもぎりぎりまで側にいてくれて、産婆さんやファナに産室から追い出されるのだ。そして、生まれた子どもを抱いたリァンを見てボロボロ泣き、ファナに怒られるまでリァンの側から離れないだろう。
ファナの3番目の子を一緒に世話していたにも関わらず、ぎこちなくわたわたとする様子も思い浮かぶ。
子どもが男の子の場合も女の子の場合もヤンがどんな様子なのか、想像が簡単につくのに、ヤンはいない。
「ヤン・・・」
名前を呼べど、リァンと呼ぶ声は返らないし、抱きしめる熱もない。
「ヤン・・・」
砂漠を渡って吹いてきた風に乗せるようにもう一度愛しい人の名を呼んだ。
次回更新は11/19です!