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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
37/167

35 罠をかける 2

完結済作品。週2回更新中!

「何の御用かしら?」

ファナは突然密談に入り込んできた女たちを見る。

「リァンの味方になりに行きたい」

ファナは笑顔を消し、目を細め冷たく女たちをひとりずつ見やった。

「あら?どうして?」

「どうしてって、あんた!!」

「あなたたち噂を知っているでしょ?あの子、うちの弟に毒矢を放ったのよ。それに、自ら地方官のところに行ったそうじゃない?あんなに面倒見てあげたのに、恩に仇で返すんだもの。さっさと別れればよかったのに、うちの弟もばかなこと。あんな女に篭絡されて、何がそんなに良かったのかしら?」

ファナはふんと鼻を鳴らす。

女たちは自分たちが可愛がっていたリァンをひどく言われてぎゃあぎゃあとわめきだす。全員がリァンを心配しているのが伝わってくる。

「うるさいわね。あの子はこの娼婦街で育ったんでしょ?あなたたちがいくら大切に見守っていたからって、あの年まで男を知らないはずないじゃない?あなたたちが知らないところで男に鳴かされる悦びでも知ったんでしょう、いやらしい。じゃなきゃ、地方官のもとで朝に昼に夜に甘く鳴くなんて、はしたないにもほどがあるわ。天上の快楽?せっかく東の都からはるばるこの地に来てくださった優秀な地方官が骨抜きにされてろくに政務もしてないと言うじゃない?ああいう女を毒婦って言うのよ!それを見抜けないなんて!!あなたたちも本当に女かしら」

ファナは女たちに有無を言わせず、言い切ってから女たちを見まわした。

女たちはぐっと喉を鳴らして黙り込んでしまうのを見て、ファナはほほほと勝ち誇り高らかに声を立てて笑う。

女たちは噂を聞いて知ってはいるけど、リァンの身近にいた女がこんなことを言うなら噂は本当なのか、と思ったのだ。

「噂は噂だろ。少なくとも私の知ってるあの子はそんな子じゃないね」

女たちの後ろから出てきたのは幾分年かさの女だ。ザイードは目を瞬かせる。

「あんた・・・」

「私は娼婦街の出じゃないが宿で客をとることもある。あの子は私の知る限り1回も客をとってないよ。むしろ男に目を付けられないように装っていた」

「それが?四六時中一緒にいるんじゃないもの陰で何をしているかなんてわからないでしょ?地味な女が好きな男もいるのよ。地味な外見に反してというのがそそるらしいわよ」

ファナは目をすがめ、如何にも下世話な男同士の会話から得た知識を披露する。

「隊長さんは知ってるけど、あの子は言葉も計算も得意でね。あの子が男たちと交渉してくれるようになって、だいぶ実入りが良くなってね。私はあの子に感謝してるんだ」

「それで?別にあなた一人があの子を感謝しているからってなんなの?」

ファナが年かさの女を挑発するように促すと、年かさの女はファナをキッとにらみつける。

「あの子の噂が本当ならそれでもいいさ。あの子が望んであの場にいるならそれでいい。だけどね、望まないところで望まない仕打ちを受けてるなら、せめてもの慰みになってあげたい、それだけだ。それにね、あのこを女に仕立てたのはあんたの弟だよ、そんなことも知らないのかい?」

年かさの女とファナは無言でにらみ合う。

どちらも視線をずらすことなく、女たちからハラハラとした雰囲気が伝わってくる。

「ザイードさん、彼女を連れていきましょう。邸宅に連れていくのにふさわしい服と化粧は明日の朝に」

先に視線をそらしたのはファナだった。かすかな笑みを浮かべ、ザイードを見やる。

「姉さん?」

「ザイードさん、私あなたより10は年下よ、あなたにそんな風に呼ばれたらとてつもない年増になった気分だわ」

ファナはザイードに今はどうでもいい苦言を呈す。

ファナは年かさの女につかつかと寄り、その手を握った。

「あの子の、リァンの力になってあげてちょうだい。望まぬ場所で望まぬ仕打ちに耐えているの。必要な分私からも援助するわ」

「あんた、さっきのわざとかい?」

「ええ、そうよ」

年かさの女の指摘にファナはきょとんとして目を瞬かせる。

「あの子の側はあの子にとってのひどい噂しか流れないところよ。そんなのにいちいち惑わされていたら、必死で耐えているあのこの足を引っ張りかねないじゃない?」

ファナは視線をほかの女たちに向ける。

噂が本当だと信じて黙ってしまった女たちは気まずそうに目を伏せる。

ファナはそんな女たちにも慈愛のこもった視線を投げ、笑顔を見せた。

「あなたたちにはさっき私が言った噂にあなたたちの知っている真実を混ぜて広めてほしいわ」

「え・・・なんで?」

「あなたたちはリァンさんを心の底から心配しているでしょ?だからよ。私たちは今からリァンさんを国を亡ぼすと言われる『傾国』に仕立てるわ。リァンさんが純粋な娘と思わせておいて、噂を逆手にとって真実が強烈な毒婦であるほど、地方官の無能さが際立つのよ。ここは砂漠の最初で最後の町よ。砂漠の掟も流儀もろくに知らない東の都が派遣した無能な官吏風情にこの町を牛耳れるものですか!!」

ファナは「ほーほほほほ!!」と高らかに笑った。


ファナは手を打ち鳴らし、女たちを解散させた。

「ここはもう使えないわ。別の場所を探しましょう。あなたは今日はうちに来てくださる?」

ファナは年かさの女に言った。

「準備ができたら明日ザイードさんと合流しましょう。宿屋に小間使いを走らせるわ、いいわね、ザイードさん」

「お・・・おう」

「では、今日は解散しましょう」

といった時、幼い少女の姿が目に入った。

「リァン姉ちゃんの旦那さんのお姉さん、私、リーフェって言います。私もリァン姉ちゃんのところに連れて行って!」

その目に強い光を湛えて、少女は言った。


次回更新は11/12です!

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