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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
31/167

29 戻らぬ日々 2

注意! 暴力的な表現があります。苦手な人は気を付けてください

完結済作品。週2回更新中!

ヤンはリァンを背負って赤門の娼館を出て、職人街まで歩いた。

姐さんたちが気遣って乱暴された姿がわからないようにと大き目の布をかぶせてくれた。

なにかしらの騒ぎがあったと知れ渡ったのか、日も落ちたというのに娼館の周りにはとにかく人は多かった。

多くの人がぐったりとしたリァンを見ておおよそのことを悟った。

「地方官様は天上の快楽を体験したらしいぞ、ほらあの娘・・・」から続く人々の噂話に怒る気力も湧かなかった。

無責任な人々の噂に絶望を感じた。

今日のことは今日中に姉や兄の耳にも入るに違いない。

リァンとヤンを知る人たちは尾ひれの付いた噂など信じはしないだろうが、ささやかにやろうと思っていた婚礼式ですらこれではできないだろう。


街の広場に差し掛かった時、ヤンの背中で嗚咽が聞こえた。

「ヤン・・・ヤン・・・ごめんなさい・・・」

何に謝っているかわからなかった。謝るのは今日は宿屋まで送っていかなかったじぶんだろうに、と。

ヤンには言葉が返せなかった。

リァンはそれを怒っているととらえたのか、ずっとヤンの背中の後ろで謝っている。

ヤンは広場にあるベンチにリァンを下した。リァンを振り返るとリァンはびくっと体を震わせる。

「リァン、抱きしめていい?」

問えばうなずきが返ってくる。ヤンはリァンの隣に座り、リァンを膝に乗せ抱きかかえるようにしてリァンを抱きしめた。

「リァン、口づけしていい?」

リァンがうなずくと、ヤンは額に頬に、耳に鼻に、唇に首筋に口づけをする。

このまま服も剥いで、リァンが嫌がろうとも身体中に口付けをしたいと思った。

唇にヤンの唇を受けたときにリァンは大粒の涙をこぼし始めた。

「ヤン・・・ヤン・・・ごめ・・・ごめんなさい・・・」

リァンは大きな声をあげて泣き始めた。何度も謝りながら。

ヤンはリァンが謝るたびにリァンの唇に口づけた。

胸にリァンを抱き、ただ口づけを繰り返す。

謝罪するたびに口づけされることに気づいたのだろう、リァンは口をつぐんだ。

ヤンはかすかに笑みを浮かべると、今までよりも長く、しっとりと口づける。

「リァン、ごめんな」

唇を外して謝った。リァンはきょとんとする。謝るのは自分であろうと。

「助けに行けなくてごめん、いやな思いをさせてごめん、怖がらせてごめん、本当にごめん。ごめん、リァン…ごめん…」

リァンはヤンの目から大粒の涙が零れ落ちるのを見て、ヤンの首に縋りつく。

ああ、こんなに愛してくれる優しい人にこんなに後悔をさせている。

今日は何もかもうまくいっていなかった。そんな人の心の隙に付け込んだような事件だった。

ヤンは今日一緒にいなかったことを後悔しているのだ。

自分の中の辛い・苦しい・悲しいをこの人に謝罪させてはいけない。

リァンが言うべき言葉は謝罪ではないと思った。

「来てくれてありがとう・・・」

やっとの思いでリァンがいうと二人は固く抱き合う。

もう二度と何者にも離されないように。


ヤンとリァンの新居に地方官からの見舞いと称して、大金と手紙が届いたのはその数日後であった。

事情が事情のため、ヤンは新居でリァンとただ過ごすことにしたのだ。

兄から言われて、二人してしばらく仕事を休むことにした。

「ああ、いい。こっちはそのうち各方面に頭を下げればいいことだ。今はリァンの側にいてやれ。お前にしかできないんだから」

と言われたからだ。

リァンも仕事のことを心配そうではあったが、ヤンは「最近働きすぎだからちょっと休みたい」といってリァンを抱きしめて寝台に転がった。

それ以来、二人は一緒に夜寝て、朝起きて、ご飯を食べて・・・家の中でなんとなくくっついたり離れたりしながら過ごした。

そして、夜はくっついて一緒に寝る。

激しい感情はなく、ただ単に穏やかに日々を生きようとしていたのだ。


そこへ届いた見舞いだの手紙だのにヤンは逆上した。

使いのものを殴りつけるような勢いだったのをリァンが押しとどめた。

「ダメ!ヤン!!ダメ!!!」

ヤンの振りかぶるこぶしに飛びついたリァンは地方官のとてつもない加虐性を思い出して体を震わせる。

あのとき、一度リァンから体を離した地方官はリァンが処女ではないことが残念だったようだ。

「夫になる人がいます・・・」

最後の祈りのように訴えた。すでに人が手を付けた、すでに男を知った女だと興がそがれればそれでいいとさえ思った。

しかし、リァンの言葉が地方官の加虐心を刺激した。

私を受け入れろ、嫌だというな、逆らうな、逆らえば夫となる男の首を持ってこようと。

男の家族の首も並べようと楽しそうに笑った。

そんなことを言われればリァンに抵抗できるはずもない。

地方官が一介の職人や商人であるヤンやヤンの家族・ファナの家族にありもしない罪を擦り付けるのは簡単だ。

ニタリと笑う地方官はリァンが黙って2度目を受け入れると要求はどんどんエスカレートさせた。

「悦べ」「喘げ」「私を欲しいと言え」と。

リァンが苦痛に耐えていると、薬を盛られたのだ。

薬を盛られても意識はあった。意識はあったけど、地方官の言葉に逆らえなくなった。

地方官の言葉に従い、何度も求めた。助けに来たヤンの目の前でも。


次回更新は10月22日です!

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