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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
27/167

25 たちこめる暗雲

完結済作品。週2回更新中!

ザイードが旅立ち10日ほど経った頃、この町の地方官が急逝した。

老齢の温和な地方官であったため、市街にもよく顔を出しており、街の人たちとも交流をする親しみのある地方官だった。

赴任した時に連れてきたという妻も温和で派手なことは好まず、この地で生まれた二人の息子は立派に別の地域で地方官を担っていると聞く。

その温和な地方官だが、伏された死にざまが壮絶だった。

ザイードが通ったという娼館とは商売敵のような娼館の一番の美姫との心中だった。

地方官が相当入れ込んでいたという。

妾にする・しないで長年連れ添った妻にも暴言を吐いていたといわれる。

「奥様をお許しになって」と涙ながらに訴える美姫のはかなさやたおやかさが瞬く間に広まった。

美姫が一命をとりとめたとの話が広まると、あることないことがささやかれるようになった。



新しい地方官が着任したのはそれから20日ほど経った頃、ヤンとリァンの婚礼を翌月に控えたころだ。

新しい地方官はなんでも東の都一の伊達男だという。

家柄は立派で、代々皇帝の信任厚く、何人もの皇帝の妻や侍女、女官を輩出している名門中の名門だ。

新しい地方官をめぐり女たちが刃傷沙汰をおこすのもしばしばだという。

思いを寄せる女たち全員を深く愛する様に女たちがどんどん吸い寄せられるという。

そのため、都の男たちから不興を買い、身一つでこの町の地方官に任命されたのだと。

新しい地方官を迎えるため、宿屋や娼館、商人や職人の娘など幅広い層から侍女や世話係を迎えるといった布告が出た。

無理強いはしないが、声をかけられたら一人都を遠く離れた地方官を慰めてほしい、と。


その日の朝、工房でリァンの姿をみたファナはあることに気づいた。

少し血の気の引いた様子のリァンは浅い呼吸が続いていた。ファナが声をかけようとしたとき、ヤンがリァンに声をかけた。

「リァン、今日は悪いけど一人で宿屋に行けるか?」

「ええ」

リァンの婚礼が近いと知れ渡っているせいか、ちょっかいをかけてくるものはいない。

それでも心配症のヤンは毎回送り迎えをしていたのだが。

今日はなんだかせわしなさそうである。

「どうしたの?」

「ああ、昨日入ってきた材料の目方が合わなくて、使いを通して話をしても埒が明かないんだ。直接会ってどういうことか聞いてくるよ。兄貴は兄貴で納入した製品が約束のものと違うって言われて相手のところ行っているよ」

ザイードが大量に色ガラスを買い付けたということが広まったためか、この工房の取引先はぐっと広まった。

取引先が増えるということは、トラブルも増えるということである。

「そろそろ職工と見習いを入れようかって話をしている、兄貴と」

「そうねえ、リァンさんも婚礼を機に宿屋もやめる予定だし、いい頃合いね。新居の使い心地はどう?」

好いた女と一つ屋根の下にいて我慢と忍耐ができない弟と、弟が四六時中好いた女と引っ付いているのを見るのがとっくの昔に我慢と忍耐力に限界にきた兄の利害が一致し2人は新居に越したのだった。

婚礼前にと渋い顔をした両親と姉夫婦だったが、「家でも工房でも身の置き場のない俺の身にもなってくれ!」というトランの叫びに折れた形になった。

弟と未来の義妹が家を出て「家で夜に耳塞がなくていいの久しぶりだ」と、深く息を吐いた弟の姿を見たときはさすがのファナも哀れに思った。

リァンもヤンも今更なのに少し恥ずかしそうにしているのを見て、「聞いた私がばかだったわ」とこぼした。


ヤンはリァンの額に軽く口づけると、取引先に赴いて行った。

ファナが気になっていたことを聞こうとした瞬間、ファナの婚家からの使いが来て急遽帰ることになった。

3人目の子が具合が悪いというのだ。

宿屋に向けて工房を出ないといけない時間が来ても、ヤンもトランも戻ってこなかった。

いつもであれば、ヤンと小間使いの少年と行くのに、リァンは小間使いの少年にいった。

「お留守番していてくれる?ヤンかトランさんが来たら宿屋に来てほしいの」

少年はこくこくとうなずいた。




次回更新は10月8日です!

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