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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
20/167

18 東の都

完結済作品。週2回更新中!

東の都ではザイードはある官僚に声を掛けられていた。

ザイードとは年はさほど変わらない。

主上の信任の厚い良家出身であるとは言うが、それは親や兄たちのことで、姉や従姉妹は主上の妃であったり、女官や侍女をを務めていた。

この男は優秀な兄や華やかな世界が身近にあったのに自身の能力が低いせいか、どうもこの男は底が浅く、加虐的で、差別的だ。

どうやら官僚に登用される際に相当金を積んだのだとまことしやかにささやかれている。

そんな男が西方の商人に声をかけるとは珍しいことがあるものだと思う。

しかもこの男がほとんど来ることがないような、商人向けの役所だ。

ザイードは珍しいこともあるものだと、目を細める。

「嫦娥を見初めたと聞いたが?」

ザイードは努めてにこやかに男に対した。動揺を気取られぬようにと。

「月の女神は我が行く先を照らすのみ、尊顔を拝謁する機会などありましょうか」

官僚は目を細め、首をかしげる。

「そうか、残念。女への土産と思うようなものを買っていたと聞いたものだから」

「旅の行く先々に美しい花がありますので、一夜の慰めを受けたときに渡すのですよ。珍しいものは喜ばれます」

「ほう?今まではそんなそぶりもなかったのに?ザイード隊長は男色か不能かとも噂があったが?」

官僚は納得しそうにない。

下卑た噂、とくに砂漠の民の逆鱗に触れそうなことをわざという。

「隊商の隊長など苦労の多いもの。野郎どもの起こす問題で花をめでる暇もなく」

「ということは、愛でる花を見初めたのか?それとも嫦娥の美しさに心を奪われたか?」

「一つでも多くでも花は花。地を旅する私には踏みつぶさぬよう進むしかできません。月の女神に似合いなのは同じ天空にある太陽の神。私などはその姿を夢想し焦がれるのみ。花の良さもわからず多くの花を愛でずに手折るだけのものには月の女神は手に余りましょう」

ザイードはニコリと余所行きの笑顔を張り付ける。

暗に「家の権威を笠に着るくそ野郎、お前はおよびじゃないんだよ、女好きの小物が!」と意味を込める。

官僚はザイードにつつーっとよると、にやりと笑みを浮かべる。

「嫦娥に似合いは異国の太陽の神の名を持つ自分だというか。異国の女か?砂漠の女か?いずれにしても都の美姫の足元にも及ぶまい」

ザイードは動揺を見せぬよう笑顔を張り付ける。

「いるかもわからぬ月の女神に恋焦がれるのは宿り木を持たぬからです。長い旅では時には届かぬものを慕わずにいられないこともあるのです。月の女神の赦しがあればいつでも側に控え、そこを私の寄る辺としましょう。我が月の女神を愛でるまで。では、失礼」

ザイードは笑顔を張り付けたまま官僚をあとに残し、その場を後にした。

後ろから不快な視線が張り付けられているのはわかったが、ぽつりとつぶやいた言葉は届かなかった。

「その月花、手折ってしまおうか、ついでに異国の太陽の神も葬るか?」

官僚はにやぁと笑みを浮かべた。


次回更新は9月14日です!

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