表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
19/167

17 二人の日々

完結済作品。週2回更新中!

リァンはヤンの休みや空いた時間を使い、ファナから工房の仕事を教えてもらった。

仕事の多くのことが宿屋と同じだった。

違うのは宿屋はたくさんの女がいたけど、ここにはファナと自分、小間使いの少年が一人いるだけだ。

「放っておくとね、あの子たちは帳簿すらもつけないのよね。材料も道具も目分量でわかっているからって、どちらかというとそれをリァンさんにお願いしたいわ」

姉の前じゃだらしない恰好をしていても、放っといても自分や弟の好いた女性の前ではちゃんとした格好するでしょ、とファナは笑う。

図星なのか兄弟は目を見合わせて渋い顔をしている。


リァンは宿屋に工房と二足の草鞋を履き、忙しく働くこととなった。

ザイードから噂を耳にしたのか、リァンに職人街への案内を乞うものも出てくるようになった。

ヤンが男と二人で出歩くのを嫌がるので、乞われた次の日にはヤンが職人連中を引き連れて隊商を迎えに来るようになった。

小間使いの少年は連絡係をするようになって常にリァンに引っ付くようにして過ごすようになり、ヤンはヤキモキするようになった。

少年は本人的にはリァンの護衛のつもりなようだ。

ヤンは自分の年の半分ほどの小間使いにやきもちを焼くのはさすがにみっともないとおもったようではあるが、隠しきれずリァンが工房に来るときは帳簿を付けているリァンが見える場所で作業をするし、材料の仕入れや商品の納入にもリァンを連れていくようになった。

そのせいで、連れて行かれた先では「婚礼はいつ終わったんだ?」と声をかけられることになった。

宿屋の仕事の時はよく迎えに来てくれたし、たとえ商談でも宿屋にヤンがやってくると生暖かい視線が女たちから注がれるのがいたたまれなかった。


2か月ほどが過ぎ工房で手伝っているとファナが実家で産気づいたと小間使いから言われた。

何かあった時は手伝いをお願いしたいからと、出産が終わるまで工房にいてほしいと連絡があった。

小間使いを家に帰し、トランは様子見と力仕事の手伝いに実家に帰った。

工房の中で神妙な顔をして手慰みのように新しい製品や既存の製品の絵を帳面に描き止めているヤンにリァンは茶を出し声をかけた。

「・・・ああ、姉さん、前回の出産で血がなかなか止まらなくて死にかけたから・・・命を取り留めてからもしばらく床が上がらなくて」

「心配ね」

「殺しても死ぬような人じゃないとわかっていても、出産は命懸けだから。って、俺は生まないけどさ・・・」

頬を指でかきながら浮かべた笑みにいつものような軽さはない。

リァンはヤンの骨ばった指に自身の指を重ね、ヤンの額に慰めるようにそっと唇を寄せる

「大丈夫よ、きっと・・・」

「うん、わかってる・・・」

ヤンはリァンをきつく抱きしめ、リァンの胸に顔をうずめる。

しばらくして落ち着いたあと、リァンの背中をするりと撫で、鎖骨に唇をあて、形に添ってなぞる。

おもわず声をあげたリァンとヤンの熱のこもった視線が絡み合う。

絡み合った視線はほどかれず、ヤンの唇はリァンの唇をかさなり、リァンもその熱を受け入れた。


工房の奥にある仮眠ができる部屋でリァンは目を覚ました。

朝の工房に華やかなにぎやかな声が聞こえたからである。

身体に走る痛みと自身の体をかかえるたくましいヤンの腕に昨夜のことを思い出した。

情熱に身を任せたまでは良かったが、すぐにぎこちなさであたふたとしたのだ。

ヤンは慣れてる感を出そうとするも何かともたつき、リァンに至っては姐さんから聞く話がほとんどだから、何をどうしていいかがわからず、2人揃って衣服を乱した状態で我に返り顔を見合わせて吹き出したくらいだ。

ヤンは気が収まらないのかリァンの腕を引き仮眠室に行き、男が2人くらい余裕で寝転がれる簡易の寝台の端に並んで腰をかけた。

気を取り直してとは思うものの去った情熱は簡単には戻らず、だからと言ってこのまま何事もなかったように終わらせるには勿体無いと思った2人は、くすぐりじゃれ合うように口付けと触れ合い交わし合った。

口付けは徐々に熱さを帯び、触れ合う手も熱と力が入る。

その後、何かをきっかけに我を忘れた時間が続き、交わされる熱に2度3度と夢中になった。そして今に至る。

視線を巡らせると、脱ぎ捨てられた服が少し手の届かない場所にあった。

工房で響くのはヤンの兄のトランの声で、こんな明らかに事後だという姿でみつかりたくなかった。ヤンはまだ兄の来訪に気づいてないのか、ぴくりともしない。

いずれ知れるにしろ、姉の出産にかこつけて何をしていると話のタネになるのがおちだ。

リァンは服に手を伸ばそうとしていると、不意に抱きしめられた。

ヤンはリァンに覆い被さり、リァンの唇に自身の唇を軽く重ねペロリとリァンの唇をなめ、ニヤッと笑う。

起き上がり、簡単に身支度をしながらよく通る声で工房の兄の呼びかけに答えた。

工房に行く前に、「ゆっくり身支度してからきて」といって、部屋の扉をきっちり閉めていった。

部屋の外からは「3番目は女の子だったぞ」「にぎやかになりそうだな」と笑いあう兄弟の声が聞こえる。

その明るい声から無事に出産が終わったんだとリァンはうれしくなった。


リァンは身支度と寝台を整えた。

そのまま部屋を出ようとしたが、なんとなく気持ちが落ち着かない。

寝台の敷布をはがして、小さくたたみ、部屋から出ていく。

部屋から出るとヤンと視線が重なって、ヤンの視線が腕に抱えた敷布に移る。

ヤンは何事かに気づいたのか二人でぎこちなく恥ずかしそうにしていると、トランにはすぐに昨夜のことがばれた。

トランはやってきた小間使いに「首尾良好」と言づけると出産が終わったばかりの姉のもとに走らせる。

恥ずかしそうにしていた二人が小間使いにいないことに気づいたときには小間使いが姉からの伝言を持ち帰っており、「よくやった!」だったときはファナが思いのほか元気なことがわかった。


次回更新は9月10日です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ