50 リュート
翌日、翌々日とリァンは部屋に閉じこもってろくに食べないで過ごした。
壁を向いて横になり、最期ヤンが着ていた上着を腹の前でぎゅっと抱えていた。
ユエは護衛の名目でアイシャや母親についていて、アイシャと母親がリァンの見舞いに訪れると必ずついてきていた。
その目でリァンだけにわかるようにニヤリと笑われるたびに悔しくて苦しくて仕方なかった。
ぽろぽろと涙を流すリァンを見て、ユエはさも当然のようにアイシャに助言した。
「まだ落ち着かないのですよ。あんなに愛していた夫を失ったんですもの」
「そうね…あんなに情熱的にリァンを見ていたものね…リァン。また来るわね」
リァンはアイシャにもなにも答えなかった。
ただ、心配そうに見つめてくるラズにだけそっと手を伸ばし、優しくその頬を撫でた。
リュートが2本届けられ、アイシャが1本をレンカのために持ってきた。
ぐったりと寝たままでいるリァンを見つめてレンカはフルフルと首を横に振った。
あの夜の修羅場を見ていたレンカにもどうにもできなかった。
せめて、町に帰れれば…と思ってもリァンが元気になる確証はなかった。
リァンとヤンが愛し合っていたのはレンカもよく知っている。
ヤンの姉がキレるくらいいちゃついていたのだから。
そのヤンが最期の最期でリァンを裏切るとは考えてもいなかった。
それに自分だって、ザイードと良い仲になってこれからと思っていた矢先のことだから、正直辛い。
あれだけ陰謀に巻き込まれたのに、いとも簡単に人を信用してしまった自分が憎らしい。
リァンと2人揃って町に戻ったら、2人で生きていく道を探そうと思った。
「私…央都へ戻されるのかしら?」
アイシャがぽつりとつぶやいた。
レンカに答えるすべはなかった。
とはいえ、この先自分たちもどうなるかわからない。
戦う力のない自分たちはこのままどこかに売られてしまう可能性だってある。
せめて、リァンとアイシャの二人は何としてでも守ってあげなければ、と思った。
と同時にゼノの妻シェーレも今どうしているか心配になった。