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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第2章 砂漠の姫は暁をもたらして
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49 裏切り

夕飯の後、レンカはヤンとリァンの部屋に移動し、アイシャたちの部屋との扉が解放された。

当面、彼女たちはこの2部屋の行き来のみを許され、面会人も許可が出たもの以外は認められなかった。

騒ぎを聞きつけて、カドやファナが来たとしてもゼノとの関係を考えれば面会は難しいだろうと考えられた。

その夜、ヤンは熱が上がり、リァンはつきっきりで看病をした。

「リァン、代わるよ」

「姐さん…」

レンカはリァンをぎゅっと抱きしめた。

そこへユエが現れた。

「リァン、少しいい?」

「ええ…姐さん、ちょっとだけお願い」

「ああ」

ユエに連れて行かれた。部屋専用の中庭が見える窓辺だ。

ユエを見て思い出したことがあった。

あの時は咄嗟のことだったけど、腕を握られて強く引かれて抱き込まれた時の感触だ。

その後、ヤンが自分たちを庇って負傷したけど。

そこまで思い出して違和感があった。

あの時、ヤンは自分とラズを庇おうとしたのか、それともユエを庇おうとしたのか。

ユエの目を見たらまずは礼を言うことだと思った。

いつも静かな目をしていて感情をむき出すことがなく、この目を見ると自然と気持ちが落ち着いた。

「ユエ。ヤンを助けてくれてありがとう…」

「いいえ。早く熱が下がって意識も戻ればいいけど…」

「そうね…。ねえ、ユエ、あなた、ヤンと何か関係があるの…?」


思い切ったリァンの問いにユエは思わずニヤリと笑った。

静かな目にドス黒い感情が剥き出しになった。

リァンは何もいえずごくりと喉を鳴らし、そこへ、レンカの悲鳴に近い声が上がった。

「リァン!ユエ!はやく!」

リァンとユエがヤンの元に駆け付けると、ヤンがもがき苦しんでいた。

「ヤン!!」

リァンが叫び、ユエが力の限り寝台へとヤンを押し付けた。

「まさか、遅効性の毒!?ヤン!!」

ヤンは苦しみながらも優しそうな目つきをして、ユエに手を伸ばした。

「ユエ…ユエ…リァン?」

「ユエよ!」

「ああ、ユエ…ユエ!!」

ヤンの手がユエの頭の後ろに伸び、引き寄せると2人の唇がリァンの目の前で重なった。

チラリとリァンを見たユエの目が勝ち誇りドス黒い光を湛えている。

怪しく舌まで絡まったのか、唇を離した時にユエ舌から糸が引くのが見えた。

「ユエ…子は元気か…?」

「元気よ…父親に、あなたに会いたがっているの、会ってあげて」

「ああ…会いたいなぁ…ユエ…」

ユエに伸ばされた手がばたりとヤンの体の上に落ちた。


「ヤン!!」

ヤンの手を握ろうと側に寄ったリァンをユエは押しとどめた。

「触っちゃダメ。遅効性の毒は皮膚経由でも伝わるものがあるの」

「でもユエは!!」

「私は毒に慣れているから」

そう言ってユエはヤンの首に手を当てた。

「もう死んだわ…」

「ヤン!!!」

「これで…私のものだわ…」

ユエは毒々しい笑みを浮かべた。

「引導を渡した甲斐があったわ」

そう言って手の中から空の薬包を落とした。

「まさか…」

先ほど口付けをした時にユエに毒を飲まされたのかと思い当たってリァンがユエをみれば、ユエはその毒々しい笑みで同意した。


ヤンに近寄れないリァンは思わず、ユエの頬をひっぱたいた。

「なんで!?ひどいわ…!あなたの子どもはヤンの子どもなの!?」

ユエはニヤリと笑いながら毒々しい視線をリァンに向けた。

「そうよ。ゼノ様の屋敷でヤンの世話係をしていた時にできたの」

「そんなの聞いてない…」

「言う必要ないもの。ヤンは出会ったその日から優しく情熱的に抱いてくれたわ」

「う…うぅ…ヤン!!」

泣いているリァンをしり目にユエはふふふと笑った。部屋の扉を開けて部屋の番をしていた使用人を呼び、「西に向かうための護衛が死んだ」とライに言づけた。

そして、卑しくリァンを見やって、「残された女はライ様のお好きなように」と付け加えた。

すぐさま使用人たちが戸板を持って現れ、直接触らないように布で巻いて運び出そうとした。

「待って」

ユエが呼び止めて、泣いているリァンに見せつけるように戸板の上のヤンと唇を重ねた。

「さようなら、ヤン。ずっと愛しているわ…運び出して」

「ヤン!!!」

飛びつこうとするリァンを抱きかかえて止めた。

「離して!!」

「あなたはダメ」

「ヤン!!連れて行かないで!!ヤン!!!」

ユエはリァンを軽々と寝台に投げ飛ばした。

「彼はちゃんと葬っておくわ…じゃあね…」

寝台で泣きじゃくるリァンを部屋に残し、扉に手をかけた。

部屋を出ていく前にリァンを振り返った。

「盗られているとも知らないで、人の男といちゃついているからよ。自業自得、いい気味」

ユエは高笑いしながら部屋から出ていった。

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