48. 拘留
そのふてぶてしい様子を見てレンカは不審な目つきでザイードから離れた。
「こ・・・この男です!!この男が!!!」
おびえた叫び声が聞こえ、厨房の男が料理人の男を指さした。
「この男が毒をもっていたのを見ました。ゼノ様がこの男に毒らしきものを渡していたのも!!」
そう言って男は恭しく血にまみれた小刀を渡した。
「ザイード殿とゼノ殿をとらえろ!!動かぬものは二人に与して、アイシャ殿の殺害を目論んだものするものとする!!」
言われればザイードとゼノと料理人を使用人たちが組み敷いた。
中にはゼノが派遣した者たちもいる。
「お前たち、その男の部屋で毒消しがないか探ってこい。ユエ、同行しろ」
「はい」
ユエは小刀を持った男と共に料理人の男の部屋に行き毒消しを探した。
あっさり見つかって唖然としてしまった。
ふたを開けて匂いを嗅ぎペロッとなめて、慌てて部屋に戻った。
「ライ様、ありました。これなら・・・」
「ああ・・・」
ユエがヤンの側についているリァンに渡し、リァンはヤンの唇に瓶の口を当てたが、毒消しはヤンの唇を伝うだけだった。
「ヤン、お願い…」
リァンの懇願にもヤンはピクリともせず、やむを得ないとユエは瓶を取り口に含み、ヤンに口移しで飲ませた。
ユエの唇がヤンの唇に深く吸い付いてどうやら舌同士を絡めたようだ。
ヤンの喉が上下して、毒消しをヤンが飲んだことが分かった。
少し気道に入ったのか、げほっと音がしてヤンが荒く呼吸をし始めた。
「ヤン!!!」
リァンはヤンに飛びついた。
「あとで傷を洗ってあげて、傷はなるべく寝台につけないようにして。側にいてあげて」
「ええ…ありがとう…」
ユエはてきぱきとヤンの処置に関して指示を出した。
一方で、ライはライで、縛り上げたゼノとザイードを監禁するように指示を出した。
事態が思わぬ方向に動いていることにリァンは動揺した。
「ライ様!お義兄様たちをどこに連れて行こうって言うのです!」
「離れの座敷牢に軟禁する」
「なぜ!?」
「ゼノ殿とザイード殿が今回の襲撃を指示していた可能性がある!」
「そんな…!!」
リァンはライに飛びついて告げられた事実に泣き出しそうな顔でゼノとザイードを見やった。
「お義兄様…隊長さん…」
「大丈夫だ、リァン…すぐ疑いは晴れる」
優しい声を出されて、リァンはライにつかみかかった。
「ライ様!!」
「彼らはアイシャ殿が西に行くのは困るのではないか?ここで害そうとしてもおかしくないだろう」
「リァン、我々を信じろ。その男は東の人間だ!!」
「そうだ!東は町の利権を手放したくないはずだ!また奪われるぞ!」
「お義兄様…ライ様…」
リァンは混乱して泣きたくなった。
ライはそっとリァンの頬に手を伸ばし、ゆっくりと頬を撫でたとか思えば、耳飾りを軽く弾いた。
「悪いようにはしない、私を信用しろ」
その目が優しく愛し気にリァンを捉え、その視線にリァンの背筋がゾクッと痺れた。
リァンの唇が何かの言葉を紡ごうとしたが、レンカがそっとリァンの肩を支えた。
「レンカ殿…」
「毒は西のものだったの?」
懇願するザイードの視線を無視して、ユエに問いかけると、ユエはこくりとうなずいた。
「毒消しを商人のあなたが持ってないはずがないでしょう」
「レンカ殿!信じてくれ!俺は心から愛しているんだ…」
ザイードの悲痛な叫びにレンカは虫ケラを見るような目つきで見やった。
今までの情交もケガらしいもののような態度だ。
「馴れ馴れしい!この痴れ者たちを連れて行って!!」
「承知」
そういってライは使用人たちに指示して、ゼノとザイードを引き連れていった。
「身の回りの世話をさせるから、しばらくここから出ないように。欲しいものがあれば言いなさい」
「…リュート…レンカお姉さまと合わせると約束したわ」
アイシャの声が響いた。
「リュートか、承知した…」
それからユエに向き直った。
「警戒を怠るな。小刀を保管した男を見かけたら、あとで褒賞をくれると言え。しかし、この先どうするか、困ったな…東との連絡を取らねば…」
ライがいつになくがりがりと頭をかいた。
ばたんと荒々しく扉が閉まり、ヤンの荒い息だけが静寂の中響いた。