47 毒消し
アイシャや母親の元に駆け寄った。
「アイシャ様。ご無事ですか?ラズ様は?」
「ええ、大丈夫よ」
「このようなことになって申し訳ありません」
それから震えているリァンの元に駆け寄って、その手を取った。
「大丈夫よ、ヤンは強い」
リァンはこくこくとうなずいた。
声を出さないで泣いている姿を見て、子どもが流れたときもそうだったな、と思った。
月のものだと言って一人で部屋に閉じこもって、声も出さずに泣いていた。
屋敷にいた女たちはさすがに様子がおかしいことに気づいて、様子をうかがっていた。
彼女の部屋に入り込もうとするあの男を女たちで押しとどめた。
女性の体のことに知識がなかったせいか、だいぶあの男をとどめておき、彼女の体調が回復するまでの時間を稼いでいたが、それでも限界はあった。
ユエはリァンの背や髪を撫で、その時が来たことを告げた。
「今まであの男をとどめましたが、これ以上はもう無理です…」
「わかったわ・・・今までありがとう・・・」
リァンはそう言ったのだった。
その後、自分はヤンの世話係をするためにリァンの側を離れた。
まさか、リァンの真似をすることになるとは思わなかったけど。
屋敷が騒然として、ヤンが戻ってきたことが分かった。ユエはザイードやゼノと目配せをし、リァンを促すと同時に自分はアイシャたちと部屋にとどまった。
リァンがヤンの元に駆け付けると、ほとんど意識のないヤンが戸板で寝せられていて、ライを見上げた。
「毒だ。毒消しが必要だ。だが、意識がないと飲ませられない…」
「ヤン。ヤン、お願い。目を開けて、ヤン」
リァンの懇願にもヤンは意識を失ったのかピクリともしなかった。
「部屋に運ぶ。ユエたちも連れてきてくれ。みんな一緒にいた方がよい」
「はい」
リァンはパタパタと音を立て部屋に戻り、事情を話してユエたちを連れ出した。
そして、自身たちにあてがわれた部屋の扉を開けて、寝台にヤンを運んでもらった。
真っ青な顔のヤンを見て、ゼノが手配してくれた毒消しをユエはあれでもないこれでもないと言いながら選んでいた。
「ライ様。このなかで使える毒消しはありません!」
「どういうことだ!?」
「刺客は西のものです。西の文様の小刀で襲われています。刃に西の毒が塗られていたかと」
ライはきっとザイードをにらみつけた。
「だせ!毒消しを出せ!今すぐにだ!!」
「俺は知らねぇ!!」
ザイードは驚いて両手を上げるも、そう言ってニヤッと笑った。
あたかも事情をすべて知っていて、それでわざと毒消しを出さないのだと周囲に映った。