44 飾り物
「ユエは指輪と腕輪と耳飾りね。旦那様からなの?」
「いいえ。一族のものです。私が死んだときに家族のものに届けられて、次のものに引き継がれます」
「そうなのね…」
思いがけない言葉にアイシャはゴクリと喉を鳴らした。
飾り物すら贈らないユエの夫は何を考えているのだろうとアイシャは思った。
「それに、夫はおりません」
「そう、自分と子どもだけ。私と同じね」
アイシャが寂しそうにつぶやいた。
「そうですね…」
アイシャのつぶやきに思わずユエは反応した。
アイシャは仲睦まじいヤンとリァンがうらやましいのだろうとユエは思った。
だからと言ってヤンをリァンから取ろうなんて思ってもいないだろうけど。
ちらりと見れば、ヤンがまたわかりやすく動揺している。
ヤンが動揺するのは、ユエの子どもの話が出るときだと思い当たった。
あんなにわかりやすく動揺するなんて、鍛錬がなってないと後で叱りつけないとと思った。
それにしても、なんであんなに動揺するのか、ユエの子どもの話などヤンには関係ないだろうと考えた結果、理由に合点がいった。
あの関係はあの時の作戦上どうしても必要なことで、ヤンがそこまで気にする必要もないのに、と思った。
ユエにとって男と情を交わすのが初めてであろうと事実ユエ自身はなんとも思っていない。
今後の影の仕事で役立つだろう男の体の構造も男が喜ぶであろう手技もどのように男を誘えばいいかという流れも手に入れたようなものだ。
初めての経験とは言え、その見返りはユエが考える以上に多かった。
だから、ヤンとリァンが仲睦まじくしていても、嫉妬どころかモヤっともしない。
そもそも、ヤンはリァンを助けるためにユエと関係を結んだはずだ。
目的を達成した以上、絡まないでほしい。
ユエの子どもの話をしているから、日数から考えてヤンとの間の子だと思っているのか。
ヤンが落ち着かなくてソワソワするのを見るとなんだか居心地が悪いだけだ。
あの時、覚悟はしたものの踏ん切りがつかないヤンにユエが薬を盛った。
正直いえば、好きな女の命がかかり、自分たちの進退を決める重要な局面で生半可な覚悟しかできないヤンにムカついていた。
ユエの手持ちの中で最も強い媚薬を盛ってやった。
理性のタガが外れて「リァン」と狂おしく名を呼び、散々ユエをリァンだと思って情を交わした。
優しく甘く、情熱的で「ユエ」と名を呼ばれたら自分が愛されていると勘違いしただろう。
薬が切れたあと、気づいたヤンは真っ青になっていた。
あたふたしながら、すがるように「子ができたら…」なんていうから、「我が家の子として育てるのでお気になさらず」と呆れはてて意地悪を言ってやった。
あれからおよそ1年、日数を考えれば生まれていておかしくないのかと思い当たった。
ヤンにとってあれは決して望まないことなのに、その責任を取らなければと馬鹿がつくほど真面目に考えているのだろう。
そういうことか、気になるならソワソワしてないでさっさと聞けば、ちょっとの意地悪を言うだけで終わる話なのに。