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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第2章 砂漠の姫は暁をもたらして
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40. 最悪の可能性

ゼノはリァンから手を離し、呆れたように大きなため息をついた。

「お前は西の言葉でわたしとリァンが何を話しているかも理解できないだろう?」

「わかりませんが、義兄上がリァンによこしまな思いを持っていると思わせるには十分です」

ヤンの答えにゼノは少しの間考え込んだ。


「お前はリァンがアイシャ殿に西の言葉を教えている間中、そばについているな?」

「はい…」

「お前はどのくらいの西の言葉を理解している?挨拶や単語で構わない」

「えっと…挨拶は“おはようございます”“ありがとう…ございます”あとは…」

リァンの側にいてこれだけの出来ということは、ヤンは西の言葉をただ聞いているだけ、あるいはアイシャに教えているリァンを見ているだけなのだろう。

アイシャの西の言葉の習得の速さにゼノは考え込んだ。


「うむ…ほとんど覚えていないな」

「あ…はい、あの…西の言葉を教えているリァンが…その…」

ヤンの思いを聞いてリァンは赤くなって俯いた。

ヤンがリァンしか見ていないことがよくわかった。


「アイシャ殿が予想以上に早く西の言葉を理解するのは…東が改めて我らを陥れるために動いている…とも考えられるな」

「お義兄様…!」

「ライ殿とユエが着いてきていることを考えると、ライ殿が指揮を執っていると考えてもいいだろう」

リァンとヤンは息をのんだ。

いま、アイシャはライと共にいる。

二人は町を飲み込む密談をしているのだろうか、それとも…


「もしくは狙われているのはライ殿か…」

ゼノの考えにリァンとヤンは顔を見合わせた。

皇帝と共にある影の長であるライの存在はどれだけ知られているのか。

ライの存在を知る人物がいるとするならば、ライが狙われてもおかしくない。

その暗殺者をアイシャが担うと言うなら、おかしくはないのではないか。


「その場合は、アイシャ殿とラズ殿の命と引き換えにとも考えられる…。今も昔も東に西を飲み込む体力はないだろうが、町を再び支配下に置くことは考えていてもおかしくない」

リァンもヤンもぎゅっと顔をしかめた。

「この町にも東に尻尾を振る連中は山ほどいるからな。アイシャ殿はどう言った分野の言葉を知っている?」


「そうですね、先日、普段の仕事の内容を聞かれたのです」

詳しく話すのではなく、ざっくりとした話をした。

他地域の隊商や個人の商人はもとより、町の職人や他の商売のつなぎで通訳をすることを伝えた。

アイシャは興味深そうに話を聞いてきて、実例を交えて西と東の言葉を通訳してみせた。

その時にアイシャに西の言葉を説明するまでもなく、東の言葉との意味を言い当てていたのだ。

服飾や女性の身を飾る小物やそれらの意匠の話だったから、アイシャの興味の範囲ではあったが、より商売寄りの言葉をいくつも理解していたのが気になった。


「うむ…。東の言葉で理解していれば、西の言葉に落とし込むだけだから、そこまでは気にするほどではないかもしれぬが、教えていない言葉を知っているとなれば少々気にかかるのも当然か」

「はい…」

ゼノはしばらく考えを巡らせた。

ちょっとした違和感ではあるが、アイシャの場合はただの本人の興味であると言うのが説明しやすい。

「引き続き用心に越したことはない。気を引き締めろ、いいな、ヤン」

「はい」

「最悪の場合、ライ殿が敵に回るやもしれぬ」

「…ユエも?」

どんな場であっても一度も勝てたことのないユエが敵に回る、それほど恐ろしいことはないとヤンは喉を鳴らした。

今回はリァンが目の前にいる。

目の前でリァンをライやユエに掻っ攫われるなど、あり得ない、と思った。


「当然だ。彼女はライ殿の手のものだ。リァン、その身に危険が及ぶかもしれないが、許せよ」

「はい…あの、お義兄様。アイシャ様への西の言葉は…?」

「そのまま教えておいて良い。アイシャ殿を西へ送る、こちらの計画は何も変わらない」

「承知しました」


ゼノへの報告を終えて辞するとヤンがぎゅっとリァンの手を握ってきた。

その手は汗ばみ、震えている。

ユエが敵に回る可能性を恐れているのだとわかった。

「ヤン…」

「リァン…ちゃんと守るから…」

ヤンの熱を感じてリァンは深く頷いた。

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