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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第2章 砂漠の姫は暁をもたらして
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37. 広がる噂

ゼノは数日待ち、どのようにうわさが広がるか状況を見るつもりだった。

噂は瞬く間に広がった。


大きくは二つ。

ゼノが大店の未亡人と言いつつ、とびきりの美人を囲ったこと。

その美人は央都で行方不明の皇太子妃を伴いこの町に来ていること。


ゼノの囲った美人は実は皇帝の非公式の妾だったとか、西の間諜だとか、嫦娥と噂になった本人だとか、皇太子とも皇太子妃とも特別な関係にあると言いたい放題だ。

今も同じ部屋を使い、女同士で絡み楽しんでいるとかまで言われている。


そんな噂を聞きつけてレンカは頭を抱えた。

このところ自分の周りから立ち上る噂はとても過激だ。

死んだ旦那が聞いたらびっくりするだろうし、亡き姑は「女はかくあるべきだ」くらい言うだろう。


乱暴を受けた女性が社交に戻ったと言うのも随分な話題だと思うが、誰からも聞かないのだから。

とはいえ、「女同士の噂が出てきたのは初めてだよ…」と大きなため息をついた。


そんな噂のレンカやアイシャには謁見の申し込みが続くことになった。

噂の真偽を確かめようとするのではなく、屋敷に入り込みより面白い話を世間に提供しようと考えているのだろう。

特に多いのが女性同士のお茶会だ。

女性達が集まってすることは年も階級も関係ない。


ゼノの妻・シェーレが普段は出ないお茶会の招待を教えてくれた。

このお茶会の噂話はピンからキリまであるが、上流階級に繋がりを作りたい女達ばかりの集まりだと言う。

皇帝の非公式の妾やら皇太子妃と噂の女性が出るとなれば彼女達は目の色変えてその真偽を確かめようとするだろうと。


「奥方様はいつもはおでになられないので?」

「私が行かなくても、使用人を潜ませれば足りますもの」

レンカが不思議に思って聞けばそんな答えが返ってきた。

それに本妻がでないお茶会に妾と噂の美人が出れば有る事無い事吹き込まれるはずだと。

ゼノの妻は世間では冷え切った夫婦と呼ばれていてそれでも離婚しないのは妻が氷の彫刻を彷彿させるような美人だからである。

美人が好きなゼノがレンカを妾にするのも当然だろうと言うのが世間の評判のようだ。

わざと出るお茶会を選ぶことで、今後起こるであろう事態に対処する準備を日頃から行なっている。

彼女は静かな様子で影からゼノを支えるそんな妻で、積極的に表に出て全方向に嵐を巻き起こすファナとは違うとレンカは思った。


「ファナ様とは違うとお思いになったでしょう?」

「ええ。ご兄弟でも女の趣味は違うものですのね」

「本人達はよく似ているのに、ですか?」

レンカはゼノとカドを並べて想像した。

見た目も笑う時の表情もいざという時の思考回路も似ていると思って、それぞれの妻を伴った姿を思い描いたら吹き出してしまった。


「さて、お返事はアイシャ様とレンカ様がご出席なさると言うことですが、ご出席はアイシャ様ではなくチシェ様とレンカ様でお行きなさいませ」

「ああ、確かにこの子は直前で気を変えることがよくありましたから」

「そうです。央都貴族と繋がりを主張するものもおりますので、チシェ様がお出になられればアイシャ様の皇太子妃の噂は確定したものと広がりましょう」

ニコニコとゼノの妻シェーレは品の良い笑顔を浮かべている。

アイシャの母・チシェも今までの娘の振る舞いを考えて、納得したようにうなずいている。


「シェーレ様。ありがとうございます。ご不快な思いをさせるかと思いますが」

「いいえ、レンカ様。お茶会といえど危険もあるかもしれません。我が家の手のものも使用人として忍ばせておりますが、決して無理をなさいませんよう」

3人は手を握り合った。

少し冷たい手だったが、シェーレの笑顔は氷をも溶かす暖かさだった。


「実を言うと、わたくし、レンカ様に名前を呼んで欲しかったのです」

「わかりますわ、他の方々は名前で呼ばれていらっしゃって、羨ましくなりましたもの」

少しモジモジとした様子で言うゼノの妻シェーレにアイシャの母チシェが同意して、レンカは目を丸くした。

普段は妹弟みたいなのを相手にしているが、この場では多分レンカが一番若いはずだ。

この2人の肌艶は年齢を感じさせず、その仕草もこの場での安心感か、非常に儚げで守りたくなるようなところがある。

2人とも名前を名乗りよばれるなど、嫁いでからはなかったのに、レンカに名前を呼ばれるとくすぐったくて仕方なかった。


この様子を見ているザイードやユエが複雑な顔をしていた。

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