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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第2章 砂漠の姫は暁をもたらして
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36. 前回の名前

休憩室では長椅子にピッタリと寄り添って、グッタリとした様子のヤンとリァンを見て、ゼノは思わず息を呑んだ。

毒でも食らわされたのか、と思った。


スッと音も立てずに近寄ったシェーレがニコリと笑うとゼノは眉間に皺を寄せた。

シェーレにもトントンと叩かれて、二人は慌てて飛び起きた。

「ヤン、リァン、帰るぞ」

「…は、はい!」


緊張したように体をこわばらせ、立ち上がったヤンに対し、リァンは呆けてヤンを見つめた。

「リァン?」

ヤンに差し出された手を取り、リァンはヤンとそれからゼノを見やった。

「あ…あの…前回は名前は…」

リァンの質問にゼノとヤンは思わず顔を見合わせた。

ユエをユエと呼んだのか、それともリァンと呼んだのだろうか、と今更ながら気になった。

わかりやすく好奇心と悪意を向けてきたあの女性たちは自分の名前をどちらで認識しているのだろうと。


「…リァンだ」

「え…?」

「俺の妻の名はリァンだ…」

「ヤン…」

ヤンはそっとリァンの髪を撫でた。


愛しいと語るその手つきと感触に、違う名で呼ばれながらも、新婚の最愛の妻として振る舞ったユエはどう思っていたのだろうとリァンは考えた。



屋敷に戻ったヤンに厨房の男が近づいた。

「お前の妻は具合が悪いとお嬢様の部屋で休んでおられる。その女引き込むなら今のうちだぞ」

一瞬何を言われたかわからず、ヤンは目を瞬いた。

「とぼけたふりを。その女とできているのを知っている。お前の妻は明日の朝まで目を覚まさん。茶に薬を盛ってやったからな」

そう言われて、この男が色に引っかかった男か、と思った。

しかもわかりやすくリァンによこしまな思いを持っているようだ。


「そうか、感謝する」

そう言って胸の隠しから金貨を出し男に握らせ、ユエだと思われているリァンをしっかりと抱き寝室へと引き込んだ。

「耳飾りと首飾りを取られて奥方はかわいそうに…」

扉を閉める前にぽつりとつぶやいた男の熱のこもった目を見て、ヤンとリァンはゾッとした。

なぜリァンに執着するのは、ああも粘着質な男ばかりなのか、人のことは言えないが…と。


リァンには言わないが、この部屋での情事は見られていることを前提だ。

わざと一部壁が薄く作られていて、声が漏れることもある。

そのため、裏切り者や間諜を炙り出すのにも使われると言う。

1人はわかりやすく引っかかったが、何も知らず使われているものも含めて後どれだけいるのか。

ヤンはいつもと異なりベールで顔を隠したままのリァンに甘く口づけをしながら、そんなことを考えた。

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