砂漠の姫は暁をもたらして 29
「と言うよりも、ラズ様は胸の大きさよりもリァンが好きな気がしますが」
そう言ってユエが腕に抱えているラズをリァンに渡そうと近寄ってきた。
リァンに渡されると察して、一生懸命手を伸ばし、フンフンと鼻を鳴らしてラズはユエの腕の中で暴れ始めた。
リァンは慌てて立ち上がりラズを抱き留めればリァンの胸に顔を埋めてラズは満足そうだ。
「ねえ、ユエ!リァン!あなた達って背格好が似ているのね?」
アイシャに言われて互いを見やった。
身長も体型もよく似ていた。
特に首の長さ、肩の位置、腰の高さが似ていて、同じ髪型をしていれば後ろ姿だけなら見慣れぬものは間違えてしまうだろう。
とはいえ、ユエは随分筋肉が発達していて、リァンよりも固そうな印象を受けるが。
アイシャにジーっと顔を覗き込まれたユエはしれっとしたまま平静を装っている。
「ねえ、ユエ、あなたっておじ様の影のものよね?」
「はい」
「と言うことは、変装も得意なんじゃない?例えば、リァンに雰囲気を似せるとか?化粧でできるでしょ?」
ユエはどきりとしたが平静を装った。
たまたまかもしれないが、アイシャの勘の良さにヤンはあたふたとした。
「似せるくらいであれば」
「他の人に化粧を施すのはどう?」
「それも可能です」
「例えば、リァンを私に似せたりとか?」
ユエはリァンとアイシャを見比べた。
身長は大して変わらないし、体型はある程度着るもので何とかなる。
顔の造作は大きく違うから、これを似せるにはだいぶ手間暇もかかるが…
髪型や化粧の仕方で全体的な雰囲気を変えることなら可能だ。
「そっくりは難しいですが、多少似せるくらいであれば可能です」
「だったら、お願いがあるの!3人で化粧を変えましょう。化粧にかかわる言葉を西の言葉で教えて!いいでしょ、リァン」
リァンとユエは顔を見合わせた。
「興味のあることだったら西の言葉も覚えられるわ。お願い」
「そうですね…」
困ったリァンを見てユエはうんうんとうなずいた。
「ご協力いたしましょう。ねえ、リァン」
「ええ、言葉を覚えられることを優先しましょう」
「ほんとう、ユエ!嬉しいわ!リァンもありがとう」
良くも悪くも素直な女性なのだろう。ニコニコとする顔は非常に愛らしかった。
「アイシャ様、西の言葉で『ありがとう』を言えますか?」
”もちろんよ、ありがとう、リァン、ユエ”
ぱっと花開くように笑顔を見せるアイシャにうまく息抜きになればいいが、とライは思った。