砂漠の姫は暁をもたらして 27
興行師が滞在する間中リュート弾きとの逢瀬を楽しみ、彼が発つ前には彼の心の証だと言って一つの指輪をもらった。
しばらくして、彼の子を身ごもっていることがわかって、この子を守るためにごり押しで宿下がりをした。
皇太子からの帰還の要請も訪問の打診もすべて断ったが、どこからか不義密通の子だとバレ、怒り心頭の皇太子の前に連れていかれる直前に皇帝が失脚した。
皇帝の正妃も、年若い寵姫も、皇太子も皇太子の母親もその親や兄弟、近い親戚も揃って罪に問われた。
難を逃れたのは、皇帝の渡りのなかった側妃たち、そして、アイシャとラズだった。
リュート弾きがなんと思っているかは知らないけど、アイシャには一生に一度の燃えるような恋だった。
これから先、会えるかどうかもわからない。
だから、リァンのようにたった一人に情熱的に愛されるのは正直羨ましいと思うのだ。
「ねえ、今日は西の言葉であなたたちの恋物語を教えて。そうしたら、言葉もよく覚えられそうな気がするわ」
「それは…恥ずかしいです…」
リァンが見渡せば、そこにいる人員のうちザイードとライは西の言葉を理解する。
ユエだってしれっとしてはいるが、ライの手のものだから、西の言葉を多少なりとも理解するだろう。
それに、ゼノによって配置されている人員もだ。
「そんなに恥ずかしいことなの?」
「恥ずかしいです」
「何が恥ずかしいの?彼の言葉?彼の態度?それとも好きあうきっかけ?」
「全部です。もう、それ以上聞かないで…」
いつのまにやらアイシャがぐいぐいと迫って来ていて、誰もアイシャのことを止める気もないらしい。
それ以上に悪いことに巻き込まれ、一時はどうなることかと思ったが、リァンとヤンの関係は以前以上に良好だということがわかってニヤニヤしたい気持ちを押しとどめるのに必死だった。
「教えてほしいわ。西の言葉で…」
「ダメです」
「ダメなの?」
「彼の言葉も態度も私だけのものなので誰にも教えたくありません…」
真っ赤になったリァンの口から飛び出た言葉にアイシャを始めその場にいた全員は目を丸くした。
「まあ、リァン。あなた、見かけによらず独占欲が強いのね」
へぇっと唸ってアイシャはヤンに目を向けた。
独占欲か、執着か…