砂漠の姫は暁をもたらして 25
母親の叱責も叔父や侍女達が諌めてもストレスを溜め込んでしまうのだ。
西の言葉が難しいというのも話をかけているのだろう。
そんなことを考えた。
身分も事情も考えてリァンがアイシャに何か言えるわけでもなかった。
アイシャはリァンが話す西の言葉の響きが好きなのか、そんなムスッとした態度を取られれば、リァンは宥めるように西の言葉を話した。
”昨夜はよくお休みになられました?”
”ラズ様はどのようなお子様ですか?”
という世間話のようなこともあるし、
”そのようにムスッとされていては、周りが気を使いますよ”
”西へ行ったらムスッとしていても世話を焼いてくれる人もいませんよ”
と笑顔で辛辣なことも言う。
「今、なんて言ったの?」
アイシャが気になっていえば、リァンはニコリと笑みを浮かべる。
「わかるためのお勉強です」
そう返されればアイシャは渋々と勉強に戻るしかなかった。
リァンとアイシャのやり取りが面白いのだが、そろそろ気分転換も必要だろうと考えた。
”おはようございます”
”おはよう”
西の言葉で朝の挨拶をしながら、リァンが現れた。
ムスッとはしているものの、アイシャも西の言葉で朝の挨拶を返した。
”昨夜はよくおやすみになられました?”
”よく眠れた。でも…”
”でも?”
アイシャは途中で返事を切った。リァンが問い返してきたことをいいことにニヤリと笑った。
「あなたたちの夜の営みの声が気になって…ってなんて西の言葉で言ったらいいの?」
リァンは考えてもいなかったことを言われて瞬間的に真っ赤になった。
後ろから入ってきたヤンも突然のことに喉を鳴らしたかと思えば、むせて赤くなった。
正式に夫婦となって1ヶ月ほど、物見遊山ではないとはいえ、普段と違う生活であれば我を忘れてしまうのも仕方ないと言い訳をしていた。
それに、昼間はどうあっても人前で触れられないリァンの胸に張り付いているラズの存在もヤンを暴走させた。
そのせいで、リァンは自分でどんな声をあげているか分からず、指摘されて初めて気づいたのだ。
「全部聞こえるわけじゃないのよ。時折、リァンの嬌声が聞こえてきて、情熱的に愛されているのねって思ったの」
情熱的などモノは言いようだ。
執拗に執着し、執着され、互いに相手から離れられないだけだ。
ほんと、物は言いよう…