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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第1章
14/167

13 リァンとヤン

完結済作品。週2回更新中!

“待たせたな、嬢ちゃん”

”商談はうまくいきましたか?“

“いい職人と知り合いになれてよかったよ”

”よかったですね”

リァンが言葉短く返すと、ヤンの姉はリァンの手に飛びつき強く握りしめた。

「まあ、リァンさん!あなたったら、言葉も達者なのねぇ!」

リァンの視界の端でザイードが我が意を得たりと言わんばかりににやーっと悪そうな笑みを浮かべる。

「え・・言葉も?」

「彼女は言葉も読み書き計算、どれも達者ですよ」

「まあ!まあ!まあ!・・・ねえ、ヤン!!リァンさんに工房のお手伝いに来ていただきましょ!!」

ヤンの姉はいいことを思いついたようにヤンに提案する。ヤンは驚き「え!?」と返すも、姉はキラキラした目でリァンに詰め寄る。

「そうよ、そうしましょ。リァンさん、見ての通り、私は身重でね。家には今5歳と3歳の子を預けてきているの。今でも毎日は来られないし、この子が生まれたらなおさら。工房に来られないと弟たちったらどうしようもないことになってしまうのよ!浮浪者まがいの格好で何日も体も洗わず、ガラスの話ばかり・・・」

「姉さん!!!」

「なによ!本当のことでしょ!!だいたいあなたたちはそんなだから浮いた話が今まで一つもないの!見かけの軽さは装っても甲斐性の一つもないんだから!」

姉の言葉を遮ったが最後、ヤンは逆に姉の言葉を矢のように浴びる羽目になった。

「そんなんだから、うかつにも服を繕ってくれたお礼に下心があったとしても自分の渾身の作を女性に渡してしまうのよ!職人の世界の暗黙の了解でそれが『求婚』を意味するってことも理解してないなんて、職人として信じられないわ!!」

ヤンは姉の言葉に喉を鳴らして息を止めた。そんな暗黙の了解があったことなど頭の片隅にもなかったのだ。

「女性が受け入れる場合は『求婚者の破れた着物を繕いなおす』っていう話も忘れてたでしょ!!」

「それは!!」

ヤンとリァンの行動は順番としては真逆ではあったものの、職人街での求婚の申し入れと受け入れに沿ったものになっていた。

リァンはそのことに気づきふるふると震えだした。

リァンは職人ではないにしても、まさかそんな意味があったことをしてしまっていたとは。

「それにしても、リァンさん、お裁縫上手ねぇ・・・ヤン!今更忘れていたなんて言い訳通じないわよ!ザイードさんも見てらっしゃるし、ほかにも一部始終を見ている人がいるんですからね!!」

「って、姉さん!まさか!!」

「まさかもなにも、あなたたち二人の話は今朝聞いていますよ、あのとき井戸端にいた女性たちからすぐ話がきたわよ」

姉はさも当然と言わんばかりだ。

リァンとヤンは思わず互いに目を見合わせる。そのまま視線をヤンの姉に向けると満面の笑みを浮かべている。

「今日のうちにリァンさんが来てくれてよかったわぁ、小間使いを送り込んで情報収集する手間が減ったもの」

リァンは視線を感じそのままザイードを振り返る。ザイードもニヤニヤしている。

「まさか、全部知っていたんじゃ!?」

「俺は商人だからな。ものだけじゃなく情報もしきたりも陰謀もすべて商品よ。俺は嬢ちゃんも知っていてやったんだと思ったんだけどねぇ・・・」

ザイードのニヤニヤは止まらない。

そんなの知らないと思ったけど、これだけ周囲を固められたら後の祭りだ。

「まあ、嬢ちゃんはともかく、兄ちゃんが職人の暗黙の了解を知らんのはまずいよなぁ・・・」

「そうねえ、今朝の話とは言え、目撃者も多いから職人街で知らない人はもういないんじゃないかしら?」

リァンははたと気づいた。

「ガラス工房のヤン」と聞いた人たちが知っていたのは今朝の出来事のせいではないのか。

リァンはただ隊長を案内しているつもりでも、声をかけられた職人たちからすれば後見人を連れたあいさつのように思われたのかもしれない。


「リァン」

リァンはヤンに視線を向ける。ヤンはひどく真剣な顔をしているが、その表情には深い後悔が刻まれていた。その表情にリァンの胸が痛んだ。

ブローチを外して返すべきだろうか、とも考える。

ヤンはリァンの正面に両膝を地面につけて座った。

リアンのひざに置かれた両手を優しく握り、真剣なまなざしでリァンを見つめる。

「正直に言うと、君が工房に来てくれてうれしかった。今朝、別れてから『また会いたい』って思ったから。『求婚』の件はおいておくにしろ、お互いを知るところから始めないか?」

ヤンの固い指先がリァンの手の甲を撫でる。

「・・・きみがよければ・・・」

少し間をおいて付け加えられた言葉にリァンはうなずく。

「まあ、今日のところはこれでいいわね。いずれにしても婚礼をあげるにも時間はかかるもの。準備をしている間にお互いのことを知ったらいいわ。まあ、私は色々と先に聞いているけど」

ヤンの姉はフフフと勝ち誇ったような笑みを弟に向けた。ヤンはぎりぎりと歯が鳴りそうに食いしばる。この姉には絶対に勝てないと思う。


次回更新は8月27日です!

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