砂漠の姫は暁をもたらして 22
リァンの息を吸う音ですらはっきりと聞こえる沈黙の中、リァンは真っ直ぐにアイシャを見つけた。
「僅かに残された道をどう辿るのか…でしょうか…」
それはリァン自身が考えていたものだ。
愛する人たちを失って生きながらえるのでもなければ、失意の中で儚くなるのでもない。
自らの手であの男に復讐をし、そして、あの場から解放されること。
その先は、思いがけないことが待ってはいたけど、ヤンがあのまま命を落としていたら、自分も生きる気などなかっただろう。
「道をどう辿るか…ね…」
「はい」
「それは、今、どうあるべきか、よね?先のことは考えないで」
「そうですね。残された道も未来はあってないものだったのでは、と考えます」
「それは…私と彼女が考えていたモノはきっと違うわね…」
ポツリとと呟いたアイシャの目がリァンの腕に抱かれているラズを捉えた。
ラズを身ごもったアイシャが真っ先に考えたのは、自分と子どもがどう生き延びるか、そして、この子の成長を見守るか、だった。
夫である皇太子から必死に隠れ、逃げ、最後の最後まで抵抗し、ラズを失うくらいなら皇太子を手にかけることすら覚悟していた。
アイシャにとってラズは未来を願い託せるものだ。
「ラズ…」
リァンに抱かれて嬉しそうなラズは名を呼ばれてアイシャを振り返った。
リァンはアイシャの元に帰ろうとパタパタと手足を動かしたラズを離し、その後ろ姿を寂しそうに見送った。