砂漠の姫は暁をもたらして 21
「叔父様は知っているのでしょう?その女性を」
「知っています。彼女は突然見舞われた逆境に負けないほど強くありました。ですが…」
「暴動が終わった後、病気が悪化して亡くなった恋人の元に逝ったのよね?」
「そうです…」
その話は初めて聞いたと言わんばかりの一同にライはアイシャを宥めるように、彼らを納得させるようにゆっくりと話した。
「彼女は我々が原因で最愛の恋人を亡くしました。私の事情を知り私と彼女の復讐のために力を貸してくれたのです」
「叔父様は彼女を看取ったの?」
ライはフルフルと首を横に振った。
「いいえ。彼女が亡くなったと情報が上がってきたのはつい最近です…」
「そう、お墓参りには行かないの?」
「…せっかく恋人に会えた彼女の元になど行けないでしょう」
ライの表情に納得いっていないという表情を見せた。
「叔父様は彼女は亡くなった恋人に会えたと思う?」
「…きっと。彼は彼女のそばから片時も離れていないでしょうから」
少し間があったのは、自身のことを思ったからだ。
ライの許嫁は今も側にいるのか、ライを恨んでいるとしても側にいてくれるなら、とライは思わざるを得なかった。
「この話は終わりですよ。お嬢様」
「はーい…」
ライはたしなめて、アイシャはまだ話したりなさそうに唇を尖らせた。
2人のやり取りを聞いて、東では自分もヤンも死んだことになっているのか、とリァンは思った。
「ねえ、町にいる時の叔父様ってこんな感じだった?」
「え…?」
アイシャの問いにリァンは言葉を詰まらせた。
「だって、町にいたときの協力者なんでしょう?お姉様もリァンもリァンの旦那様も」
「協力者ではありましたが、大っぴらには関わっておりませんよ。私は取引先の大店の未亡人として、リァンは付き添いとして、ですから」
「そうなのね」
「ライ様は私たちの素性をよくご存知の上で、職務に忠実な武官としておいででしたよ。アイシャと話す時のようにこんなに優しく慈愛を見せることは…」
「そう…もう少し彼女の話を聞きたいのに…叔父様は教えてくれないの」
囚われた女性の何がそんなにアイシャを惹きつけるのだろうとリァンは思った。
「なぜそんなにその女性を気になさるのですか?」
リァンの問いにヤンもレンカもライですら喉が渇いた。
当の本人がなぜそれを聞くのか、と。
「私は望まない場所に1人残された。彼女は囚われていたと聞いたわ。どういう思いでそこにいたのかしら?愛する人は手の届かない場所にいて、何を考えていたのかしらって…。私と同じことを考えていたなら、少しでも彼女の慰めになったかしら…?」
「慰めになどならないと思いますよ」
想像以上に鋭い声が出てアイシャ以外が息を飲んだ。
それ以上は何も言うな、と言いたげに制された。
「どういうこと?」
アイシャが不満そうに食いついてきた。リァンに反論のように返されるとは思っていなかったのだ。
「状況が似ていても、考えることはその人それぞれですよ」
「何を考えていたと思うの?」
「私にはなんとも…」
「あなたの考えでいいわ、聞かせてちょうだい」
アイシャに言われて、ライもレンカもザイードも青ざめている。
リァンの言葉次第ではヤンがアイシャにつかみかかるかもしれない。
わずかな時間考え込んだリァンだが、その場にいた全員にはとてつもない長さのように感じ、ライとザイードは最悪の事態に向けて体の重心をずらした。