砂漠の姫は暁をもたらして 17
ゼノはヤンとユエを連れ、互いの手のものに対面させた。
ここからは共闘のため、互いの顔や身体的特徴を覚えろということだった。
ライの手のものはかつてゼノの屋敷に見たことのある顔がいくつかあり、町の復興中にも落ち着いた後にも商人として訪れたり町に紛れ込んでいるものもいるようだとヤンは思った。
「ヤンとユエの二人には妃と母親の元についてもらう。言葉を教えるリァンと二人の話し相手になるレンカ殿の護衛も含むから、そのように」
顔合わせが終わるとそれぞれが普段の役柄へと戻っていった。
「ユエ、久しぶりだな。化粧が変わると見違えるものだ」
「ゼノ様。ご無沙汰しております。化粧は女性の武器の一つですもの」
ユエはにこりと艶やかな笑みを浮かべた。
ゼノの元にいたとき、リァンに似せる化粧をしていたときとは打って変わって、東の素朴な顔立ちに見せる化粧をしていた。
「これでは、街中ですれ違っても気づかぬだろうな」
「おほめいただきまして光栄です」
ユエにとって表面の美醜など大した評価ではない。
彼女の持つ技術を褒められる方がはるかに価値のあることだ。
ユエはちらりとヤンを見やった。
「久しぶりね、ヤン。彼女と夫婦になったのね」
「ああ…久しぶり」
「おめでとう。新婚の時期なのに呼び出してしまって、ごめんなさい。彼女は必ず守るわ。女同士だからこそ共にいられるときもあるもの」
「ユエ、ありがとう…あの…」
「そうだ、ユエ。この屋敷には浴場がついているから、使うがよい。浴場に男を侍らすことはできぬが…手だれは周囲に配置しよう」
ヤンが何かを言いかけると、思い出したようにゼノが言った。
都にいれば浴場に入ることもあるが、砂漠では湯あみはあれど湯につかる習慣はないものだからな、という。
「東のお二人には何よりも朗報でございます。ありがとうございます、ゼノ様」
そう言って笑顔を見せたユエも嬉しそうだ。
ヤンが気になっていることを聞こうとするが、ユエは子どもの世話係兼二人の侍女兼護衛という立場のため、あれこれと忙しそうに立ち回る必要があるのだという。
そのため、リァンやレンカが側にいるときは二人の護衛から離れ、侍女の役割が多くなりそうだと。
「あなたにお願いするのもおかしな気もするけれど、お2人も守って、ヤン」
「約束する」
向かい合ってヤンを見上げれば、かつての熱をもってヤンがユエを見下ろしていた。
ヤンからユエには触れないものの、その熱に再び囚われそうになって、ユエは侍女の仕事のために二人から離れた。
「義兄上。俺もこれで」
「ヤン」
ヤンは軽く礼をしてゼノの前から辞そうとしたが呼び止められた。
「はい」
「今回も守るものが多い。共有と連絡は密にとる。いざというときはお前が正しいと思う判断をしろ」
「承知しました」
ヤンは頭を下げてゼノの前を辞した。