砂漠の姫は暁をもたらして 13
「アイシャよ、よろしくね。見たところ、年も近そうだし、仲良くしてくれると嬉しいわ」
「リァンです。こちらこそよろしくお願いします」
リァンが控えめに、それでいて礼を欠かないように挨拶をした。
「仲良くして」といったのに礼で返されてしまって、アイシャはツンと唇を尖らせた。
「西の言葉を教えてくれるのでしょ?他人行儀はやめてちょうだいね、リァン」
「アイシャ!!」
「母様、堅苦しいお説教はやめて。窮屈な屋敷から解放されるのだもの、少しぐらい羽目を外したっていいじゃない?」
渋い顔の母親のお説教などどこ吹く風だ。
「羽目を外すって…自分の状況をわかっているの!?」
「ライおじ様だって護衛についてくださっているし、うちの子にだって強い護衛兼世話係がついているのよ、ユエ!」
ライを「おじさま」と呼ぶのを聞いて、本家筋と末端の分家といえど、叔父と姪の関係になるのか、と話を聞いていて妙に納得してしまった。
アイシャが呼べば、ユエと呼ばれた女性が小さな子どもを抱えてやってきた。
確かに女性に抱えられた小さな子どもは東ではなく西の顔立ちをしている。
「息子のラズよ。父親の名をもらったの」
ラズという名の子どもはリァンをじっと見つめて、おもむろにリァンに手を伸ばした。
リァンがその体をユエから受け取るように抱きかかえるとリァンの胸をポンポンと軽く叩いたかと思うと嬉しそうな顔をしてリァンの胸にすり寄った。
手はリァンの胸に置かれていて、リァンを見てニパッと満面の笑みを浮かべた。
小さな子どもに抱きつかれて胸に擦り寄られて固まったリァンだったが、その無垢な笑顔を見て思わず頬が緩んだ。
ラズはリァンの頬が緩んだのを見て、さらに胸にすり寄って、リァンはそんなラズが可愛くてたまらないとばかりに表情を崩した。
その様子を微笑ましく見ていた女たちとは異なり、ヤンはわかりやすくイラっとした。
「ねえ、ユエ、あなたの子っていくつだったかしら?」
アイシャの質問にヤンは固まった。
固まってユエを見たらユエと目が合ったが、ユエはふいっと視線をヤンからそらした。
ユエに子どもがいるとしたら、状況と日数から考えて自分との間でできた子どもだとしか考えられなかった。
「あ…」
ヤンが声をかけようとしたが、アイシャの声に遮られた。
「ねえ、リァン、あなたたちは子どもはまだなの?」
アイシャはユエの返事も待たずにポンポンと話題を変える。
「私たちはその、新婚で…」
「そうなの?お見合い?親が決めた相手?それとも恋愛?」
「えっと・・・その・・・」
リァンがしどろもどろになったのを見て、アイシャはニヤリと笑った。
その笑顔が人が悪そうでいながら、人の様子をうかがう雰囲気を漂わせたからリァンはどきりとした。
この人はもしかしたら、女性と気安くじゃれ合うような交流をしたことがないのかもしれない。
この人の立場上、決して誰も文句も言わないし、嫌なことでも黙ってしたがってくれたのだろうと。
ちらりとレンカを見れば、同じことをレンカも考えていたようだ。
「ねえ、ユエ。好いた相手と将来を誓い合えるって素敵ね」
「そうですね」
ユエはひどく気まずそうなヤンをちらりと見やって、それからリァンに笑いかけた。
「好いた相手と一緒にいられるのは奇跡のようなこと、お相手を大切になさいませ」
「ありがとう・・・」
リァンがそう言ったところに、ライとザイードがそろって現れた。
なんだか、不穏な空気と修羅場の予感…