砂漠の姫は暁をもたらして 12
翌朝には装いも新たに一行はゼノの町に用意された屋敷に逗留することになった。
隣邦とは言え砂漠の最初で最後の町とは異なり、装いも建築も東の都に近いものであった。
ゼノの屋敷の使用人のうち、護衛も兼ねて武術に長けているものが使用人としてこの屋敷に派遣されていた。
東の客人を迎えるため、ゼノの妻からも様々な助言があったらしく使用人はきびきびと必要なものを揃えていた。
特にリァンとレンカには上流階級の女性を相手にするということでふさわしい衣装が何着も準備されていた。
部屋もそれぞれ用意されており、リァンはヤンとレンカはザイードと使うのがあたかも当然のような間取りになっていた。
「二人も狙われることを考えたら人目のある昼間はともかく、夜は信頼している相手に守られる方がよかろう」と言うことらしい。
しかしながら、事情を知っているのは上級の使用人ばかりで、それも全てを教えてはいない。
そのため、あっという間にレンカはゼノの愛人という噂が流れることになった。
リァンはリァンで到着初日からヤンが引っ付いているところを使用人に見られていた。
新婚だとは言うが部屋から漏れ聞こえる声を聞く限り、玄人だろうという噂が流れた。
数日で準備を終わり、東の客人が到着した。
ゼノと妻が迎えに立ち、その後ろにレンカとリァン、その後ろにヤンと他の護衛が付いた。
相手方は二人の女性。一人はリァンと年も同じくらいだから、彼女が皇太子の妃だろう。
もう一人、品は良いが凄みのある雰囲気を湛えた年配の女性がいた。
彼女があの地方官の姉、とリァンは考えた。
皇帝と血が近く、長きにわたる陰謀を生き抜いてきた一族。
その一族に生まれれば、血筋の良さだけでは生き残れず、頭の良さもしたたかさも機を見る能力も必要だ。
その権謀術数の世界を生き抜いた凄みは顔に出るものだな、と思った。
姉弟と言うだけあって、確かに似てはいるが、あの男は卑屈さがその表情に出ていたのはまちがいない。
姉と言うことは深窓の令嬢として育ったのだろう。
その姉があれだけの表情をしているということは、兄や弟、年の近い親戚などに比べられたら…とリァンは思ったが、そこにはあの地方官に対する憐れみも嘲りも感じられなかった。
ちらりとレンカを横目で見れば、その母親にも負けず劣らずな雰囲気を漂わせ、それでいて艶やかな空気をまとっている。
母と娘は目の形がそっくりで、レンカの雰囲気に目を瞬かせた。
ゼノはその様子をいち早くとらえ、2人に紹介をした。
「こちらにいるのはレンカ殿とリァン。レンカ殿はお二人のお話相手になりましょう。西の興行師を招いた大店の未亡人として接してください。リァンは私の遠縁の娘、隣におります妻の遠縁の若者ヤンあの妻です。お二方に西の言葉をお教えします」
言われれば二人は事前に打ち合わせしていたのかニコリと笑みを作った。
母親の方が腰を沈め、レンカに礼を取った。
「これはレンカ様、お久しゅうございます。過日はうちの娘のアイシャがご迷惑をおかけいたしました」
「こちらこそ、ご無沙汰しておりました。アイシャ様もお元気そうで何よりでございます」
「まあ、レンカおばさまったら!アイシャ様なんて他人行儀やめてください」
「アイシャ!」
母親とレンカが礼をしあい、その雰囲気に圧倒された一方で、娘である皇太子の妃の気安さに一同目を瞬いた。
西の興行師とできあがるなどどんな娘かと思えば、とんでもないじゃじゃ馬らしい。
母親の注意にもぺろっと舌を出す無邪気さを見せながら、無遠慮にリァンとヤンをじろじろと見てきた。
東の元皇太子妃、到着!