砂漠の姫は暁をもたらして 10
翌日午前中に一同介した。
レンカとリァンの荷物はそれなりにいっぱいである。
二人から買い取った水と食料は、道中の休憩時に一行が消費する足しになるだろう。
レンカはゼノが持ち込んだ衣装を身にまとい、すっかり大店の未亡人というたたずまいだ。
顔を合わせたゼノですら目を瞬かせた。
「既製品ではあるが、こんなに美しく装うとは…」
「まあ、ゼノ様、お上手ですこと…」
ふふふと笑うレンカは昨日ゼノをやり込めた人物と同一とは思えないほどの風格を持っていた。
「これがレンカさんの魅力ですわ、ゼノ様!」
「いやはや、女性というものはいくつもの顔があるものだな…」
「兄上、義姉上に疑われることだけはやめてくださいね」
レンカとリァンから家の鍵を預かったファナは少し複雑そうに二人を見やった。
「気を付けてね。ちゃんと帰ってきて。またこんな風に見送るなんて…」
つぶやいたファナにリァンは胸がつぶれるかと思った。
「前回もちゃんと帰って来たろう。今回も心配いらないよ、ファナ姉さん」
レンカはぎゅうっとファナを抱きしめた。
「リァンもヤンもちゃんと守ってやるから、あんたはここでいつも通り悪い女でいればいい」
「もう、レンカさんたら…」
ファナがぐすっと鼻をすすると、レンカがファナを離して、その目に指を伸ばした。
「行ってくるね。帰ってきたら笑顔で向かておくれよ」
「ええ、必ず」
ファナとレンカは互いに笑いあった。
「リァンさんも気をつけて、あちらの町が気に入っても帰ってこなきゃ許さないから」
「はい、行ってきます」
ファナはそう言うリァンをきゅっと抱きしめた。
「ちゃんと生きて帰ってくるのよ、ヤン」
「うん、心配しないで、姉さん…」
「心配なんか、してあげないわ!」
ツンとするファナを見て、ヤンは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「行ってきます…」
「いってらっしゃい…」
ファナは名残惜しそうに馬車に乗り込んだ3人の後ろ姿を見送った。
「西と東の客人に関する噂や対応はカドとファナに任せる。邪魔するものがいるようなら探れ」
「承知しました。兄上。くれぐれもお気をつけて」
「お前たちもな」
そう言って、馬車に乗り込んだ。
道中1泊し、邦境の検問所を超える必要があった。
あれこれと形式ばかりの質問をされて、検問所の役人はちらりと車を覗き込み、レンカと目が合った。
艶やかな笑みを浮かべ、「ご苦労様」と声をかけたら、役人はすぐさまゆであがり、検問所をあっさりと通してくれた。