砂漠の姫は暁をもたらして 2
カドが言ったように今日の結論はヤンが来てすぐに出た。
ヤンから納品物を受け取って、検品をしてもらっている間にリァンはゼノの手紙の話をした。
ヤンは話を聞いていて、眉間にシワをよせ、ムッとした表情を見せるとサラサラと一筆したため伝令に渡した。
伝令は中身も確認せずに一礼をして店から出て行った。
「なんて書いたの?」
「リァンは行きません、って」
「それだけ?」
姉に問われて頷くと姉と義兄の口から大きなため息が漏れた。
「あんたは、それでゼノ様が納得すると思ってるの?」
「つけ込む隙を与えるだけだとわかってるんだよね?ヤン」
「う…」
2人に指摘されてヤンは喉を鳴らした。
「伝令が戻って、兄上が来るとしたら3日後。君が兄上に盛大にイヤミを言われているのが目に浮かぶようだよ」
それになんのかんの理由をつけてヤンも連れて行ってそれなりの仕事をさせるつもりに違いない、とカドは思った。
「オレたちは新婚ですよ。婚礼式からまだ1ヶ月だ。新妻を連れて行こうなんてそんな酷いことありますか!?しかも期限も書かずに」
ヤンは苛立っている。
この件に関しては譲るつもりはない。
婚礼式の時にゼノはいつになく優しい表情をリァンに向けていた。
ゼノの凶悪な表情しか見たことのないヤンは驚きを通り越して、自分の目を疑った。
それにリァンには亡き父親から預かったという手紙を渡し、涙ぐませ、驚いたことに手紙のやり取りの約束までしていた。
店を経由し、情報のやり取りが主なようで個人的な内容はないとリァンは言っていたが、西の反転文字を読めない自分にはその内容を理解する術もない。
リァンを疑うわけではないが、面白くない。
ザイードがレンカとできあがってリァンから手を引いたと思えば、今度はゼノがちょっかいをかけてくるのだから、うかうかしていられない。
そんなことを義兄や姉、リァンに漏らせば、呆れられるだけだった。
「君は少しリァンを信用して…」
「信用してます!」
「そうかい?なら…自分に自信を持たないと」
「自信…」
「いつまでも小さな子どもじゃいられないのよ」
「うぅ…」
義兄にもっともなことを言われ、姉は大きなため息とともに呆れ、リァンは苦笑した。
大体、自分の周囲なんて男は自分より遥かに大人ばかり、女性は姉を筆頭に甘やかす人たちばかりだ。
人に甘えることばかりがうまくなって、下手に過信はするけど、自信って…と馬鹿がつくくらい真面目な性格が災いしてぐるぐると考えている。
そんな自信のなさが結局は自分を苦しめて、リァンに近づく男を徹底的に排除しなければ気が済まないのだ。
それが兄でも義兄でもザイードでもゼノでもだ。
見習いも姉の子供達であろうと男には容赦しない。
どんな重要な話か知らないが、新婚のリァンを自分から離してゼノのもとに呼び寄せようだなんて、図々しいにもほどがあるとヤンはプンスコ怒っている。