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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
第2章 砂漠の姫は暁をもたらして
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砂漠の姫は暁をもたらして 1

新章始まります!


ヤンとリァンの婚礼式も無事に終わり、レンカがザイードと見事に出来上がっていたと伝えられた頃、リァンの元に1通の手紙がゼノから届いた。

曰く、「東の者が西へ赴任することになった。そちらの町を通過する際に西の言葉が使えるか試してほしい」と書かれていた。

とはいえその下には、西の反転文字で、「東の騒乱に巻き込まれた女性を我が町でしばらくかくまい、言葉を教えてから西に逃がす」と書かれていた。

手紙を持ってきた伝令は「お返事をいただけるまで帰れません」と言い、流石にリァン1人では判断しきれずにいた。

ゼノの手紙には「本来の要件は必要に応じて家族にのみ話して良い」と書かれていた。

ということは、よほどの重要人物で関係者を最小限に抑えたいのだろう。


とはいえ、伝令を受け取ったその場にカドとファナがいれば説明せざるを得なかった。

当然のことながら2人は「西の反転文字には何が書かれているのか?」と聞くし、聞かれれば答えざるを得ない。

「いずれにしても兄上の元に行かないといけないだろうね」

「はい…」

「こちらは…気にしなくて良いよ。商談は力不足でもリーフェやうちの子たちに頑張ってもらおう。隊商にだって言葉が達者な者はいるし、君の今後を考えたらいつまでも君に頼りっぱなしはよくないからね」

「今後ですか?」

リァンが目を瞬くとカドはさも当然のように言った。

「だって、いつ子どもができてもおかしくないだろ?」

「うぇ!?」

リァンの口から素っ頓狂な声が出た。

「そうねぇ…リァンさんの体調によっては店に出られないこともあるだろうし、あの子達だって少しは慣れておいてもらわないと困るわ」

「実践に優る学びはないからね。君たちの間に子ができれば遅かれ早かれ、あの子たちの出番が来ていただけだ」

「いや…その…」

ヤンとのことは今更照れることでもなければ、隠すことでもないのはわかっている。

にもかかわらず、しどろもどろなのは、一度寝台に引き込まれれば朝になるまでヤンが放してくれないからだ。

そして困ったことに、リァンより早く目を覚ましてリァンの寝顔を覗き込むのがここ最近の日課らしい。

寝顔を覗き込まれるのも寝たふりして放してくれないのもどちらも正直困っているが、こんなことを言おうものなら「あら、いいわねぇ」「仲良しだなぁ」としか言われないから相談もできなかった。

それに子どもについては、ヤンにしか話していないこと、リァンの心の中だけで抱え込んでいることがあり、それが大きくよどんでいる。



「子ども云々は置いておいてもあの子たちに目標を定めるための機会にしたいところだね」

「そうですね」

リァンとヤンの仲は想像以上によいものだと感じたのか、それとも自分たちの新婚のころを思い出したか、リァンのよどみに気づいていながらあえて何でもないという態度をとることにしたのかカドとファナは互いにニコニコとしている。

店の方はカドとファナの采配に任せておけばいい。

リーフェや子どもたちが力不足でも多少の失敗で店に損害を出してもこの人たちなら上手く処理するだろう。

そもそも隊商は余程のことがなければ言葉が達者なものは必ずいるし、リァンにしたって交渉をするよりは通訳翻訳、そして、言葉の行き違いが発生しないような補足をすることが主に求められている。

最近は商談よりも、各地の情報集約と処理任せられることの方が多くて、この辺りはまだ子どもたちには渡せないものだ。

店でどういう采配を取るか、そこはリァンの出る幕ではないとわかっている。

「ということは…」

「そうだね」

「問題はあのこねぇ…」

3人は顔を合わせてふぅとため息をついた。

リァンだけがゼノの元に行くとなればヤンは猛烈に反対するだろう。

リァンを取り戻して以来1日たりともリァンの側を離れようとしないし、仕事の時だって最近はカドの店を納品の最後にして、そのままリァンと直帰するようにしているのだから。

とはいえ、2人きりではなく、ファナやリーフェも家に送り届けるのだが。

「なんにせよ、ヤンに話さないことには決められないね。俺としてはこの機会に西にも東にも兄上にも恩を売っておきたいけど」

カドはカラカラと声を立てて笑った。

「君、もう少しだけ待っててくれよ。今日の結論はすぐに出るからさ」

カドが意味深長にいえば、伝令は軽く頭を下げて承知した。

応接間に通そうとしたが、それを遮って店の片隅で気配を断ち店を見渡すように立っていた。

彼はそれなりの手だれなのだろうとカドはその様子を見て思った。


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