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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
番外編
117/167

星を読む 8

「娘が生まれたって?」

夜空を見上げるイオに隊長になった男が声をかけた。

「ラシード」

彼もまた気のおけない友人だ。

彼はイオが星を読むことを知っていて、その知識と知恵に何度も助けられてきた。

この町による際は屋敷に逗留していた。

「ああ、嫁に出したくないなぁ」

冗談ぽく笑うイオの肩に隊長は腕を置いた。

「本心は?」

「ちゃんとした花嫁にして俺の手元から送り出したい…」

叶わぬ夢だ。

自分の運命、妻の運命、娘の運命を見た時にちゃんとした花嫁衣装を着せて、自分の手元からおくりだせないないのがわかった。

ある時に娘の運命にゆがみが生じていて、その先は随分あいまいになっていた。

多くのものを奪われ、それでも、助けをもらいながらも娘は自らの足で立つことはわかった。

そんな娘に残してあげられるものは残したいと思った。

何を奪われても決して奪われないものを娘には与えよう。

「俺にできることは?」

「頼みがある」

「もちろんだ、お前の望むままに」

イオと隊長は遠い空を見上げた。そこには無数の人々の運命が記されている。

自分のも隊長のも、気のおけない友人たちも、可愛い娼妓たちも、妻、娘、娘に愛を教える男、その家族、娘に心酔する男、娘の力になってくれる人たち、この世に生きる全ての人たちの運命がそこにあった。

「君が目をかけている若者いるだろう?馬の飼育場にいるって言う」

「ああ」

「その若者をさ、この町を経由する隊商の隊長になれるように育ててよ」

「わかった…」

「あとは1人、女性の世話をしてもらいたい」

「…美人か?」

「超美人!」

男2人ニヤッと笑い合った。

「彼女はまだこの町にはいないが…」

「どこにいる?」

「焦るなよ、ラシード。彼女が君の前に現れる時、決して幸せではないんだ」

ラシードは顔をしかめた。

せっかくの美人との逢瀬なら、少しでも楽しい方が良いだろうに。

「家族を亡くした彼女は、年の離れた夫を得る。病で妹と子を失った後、この町にやってくる。この町で夫を失った後、彼女は君の前に現れる…」

イオの指が星空を撫でた。

彼の指の動きで星空が動いていくような錯覚に陥った。

「その女性が小さなお嬢様の力になるのか?」

「そうだ。俺も君も娘のそばにいられなくなった後に、娘の力になってくれる。彼女も馬の飼育場にいる若者も」

隊長は唖然とした。

この男は全ての運命を知っていることを知ってはいたが、どこまで見通せるのだろう、と。

美人の世話は楽しみだが、馬を育てながら隊商の隊員として送り出したあの若者は小さなお嬢様の力になってくれるだろうことを考えたら泣けそうになった。

その頃には自分もイオもこの世にはいない。

だけど、残されたものが戦い自ら選ぶだけの力を残さなければいけないのだから。

「その若者や美人だけじゃない。ここでも色々仕込むからさ、これから」

イオはニコリと笑った。

星を見れば、どう組み合わせたらいいかがよくわかった。

自分が望んでもできないことはまだ若いカドが所帯を持って大切な人たちを守れるようになる頃までにはできるように命を賭けよう。

自分が娘にしてあげられない代わりにカドの店から幸せで可憐な花嫁を何人も送り出してもらおう…

美しく装う女性たち、恋に夢中になる若い男女。

思い浮かべたその光景は希望であり、自由で幸せの象徴のようだった。


「俺は若い世代の幸せのために命をかけるよ。若い世代は自らの意思で砂漠を越えられるくらい幸せで自由であるべきだ。俺と一緒に命をかけてくれ」

「星が光を失っても俺だけはどこまでも共に行こう。我が王ティオベ」

月明かりの元、隊長はイオに対して砂漠の民の最敬礼をとった。


おわり

これにて「番外編」を終了します。


ここから先は、章を改めて、不定期に更新していきます。

お付き合いいただけますと嬉しいです。

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