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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
番外編
116/167

星を読む 7

娘が生まれた。月が美しく輝く夜だった。

リァンと名付けた。

空を見上げれば娘の運命が見えた。

娘が投じる運命、そして、長じて愛を知り、奪われ、傷つけられ、それでも自らの足で立ち、多くのものに支えられて、自分の仕込みの最後の引き金を引く娘。

「これが運命か…俺は何もできないのか…」

涙が頬を伝った。

世界の支配などどうでもよかった。

妻や娘やこの町の気のおけない友人たちが幸せでいればそんなものどうでもよかった。

そして、この町で生まれて育つ若い世代が幸せで、自由であってほしかった。

しかし、星の運行に示される運命はそれを許さなかった。

娘が引き金を引かなければこの町は自由を奪われて虐げられるしかないのだ。

テベルがイオを生かしたように、自分にも抗うことはできるだろうか、と思った。

せめて一矢を報いよう。

これは自分をこの世に生み出した家族のためでもある。

東の国で北との交易を一手に引き受けていた家が彼の出身だと知った。

過去に複数回、北の皇帝の一族とも縁を結んだ家だ。

東でも北でも交易において強い力と権益を持っていたことがわかっている。

しかし、あらぬ疑いをかけられて、当主も妻も子どもたちも親戚一同が東の国で処刑されたと聞いた。

処刑されただけではない。

家の存在そのものが消されたのだ。

明らかに彼の家が持っていた権益を狙ってのことだった。

彼が生き延びた理由はわからない。

当主か誰かの妾の子だったのかもしれない。

全く血のつながりもないのかもしれない。

もっとも疑わしいのは、双子の死産だったという片割れだ。

年のころが最も似通っており、死後のお守りとして紋章が刻まれた小刀を添えられたことがわかっている。

紋章が刻まれた小刀を持っていたのは一家の誰かが一縷の望みを託したからだろうか。

そんなこともわからなかった。

わからなかったが、その消された一族に縁づく自分が東が虎視眈々と狙うこの町にいるのは何の因果か。

消された一族の復讐代わりにこの町で東に対する反撃の狼煙を上げるつもりだ。

しかし、自分の力が及ばない。

できるのは来る日のために準備をすることだけだ。

最後の引き金を引くのは生まれたばかりの娘だ。

娘が来る日まで生き延びられる能力を与えなければ、妻にも話して準備をしよう、隊商の隊長になったあの男にも協力を求めよう、若い友人たちに再び立ち上がるだけの備えを、そして、最後の最後で全てをひっくり返す仕込みを、うまく重なれば、この町は自由を取り戻せるはずだ。

妻や子や友人の何人かはそのせいで命を落とすだろうが、あの世で謝罪しよう。

彼らが罪を背負わなければいけないなら、自分が全てを背負って地獄に行こう。

そう思った。

リァンのお父さんのお話でした。

因縁は長く、終わらない…

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