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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
番外編
112/167

星を読む 3

「おい、テベル。朝メシ」

「おぉ、イオ。ちょうどいいところに」

少年は名がないと言ったら、イオという名前をもらった。

短くて覚えやすくて気に入った。

名前のようなものはあったが、親みたいな人は声を出せなくて、名前を呼んでもらったことがなかったのだ。

そんなことを言えば、男がボロボロと大粒の涙を流した。

研究者の男はテベルという名前で、イオと同じく家族はなかった。

星の運行を調べると同時に、どうやら南西の国からもたらされた星の運行で人の運命を読み解く術も研究しているようだ。

何枚もの紙に書き写し、一冊の本としてまとめたのだ。

「これがイオの星の運行図だ」

そう言って楽しげに話してくれた。本来であれば生まれた場所日付時間が必要だが、それを知らないイオにテベルは名付けた日を起点にして星の運行図を描いた。

曰く、「名前が変わるというのは生まれ変わり、運命が変わるということだ」だそうだ。

「お前、苦労しそうだなぁ」

運行図を見てテベルは笑った。テベルから星の運行も運命の運行も読み解く術を教わった。


「テベル、往来で、北東の騎馬民族が襲撃にくるって噂になってる」

イオの言葉にテベルは喉をならした。

「そんなこと運行図には出てないぞ。お前に頼みがあるんだけどさ、10日ぐらいあの山の観測所で記録撮ってくれないか?俺はここで観測するから、差がみたい」

「えー、あんた、10日も俺がいなくてまともに食えるのかよ」

イオは顔を顰めた。テベルは研究に夢中になるあまり、寝食を忘れてぶっ倒れたことが何度もあるのだ。

テベルに拾われて以降、イオが生活面を世話しているため、テベルの「苦労しそうだな」に関しては「あんたのせいだよ」と言いたい。

「10日で俺がくたばると思うか?観測終わったら飯作って持ってきてくれ」

「全く…」

イオはテベルに言われたように山の観測所に籠った。

籠った時にテベル手製の観測記録を観測所で読んで、惑星と呼ばれる星々の中に輪があるのでは?という記述があり、小型の遠眼鏡で見てみた。

そこまではっきりしたものは見えなかったものの、輪があるように見える惑星があるから、後で教えようと思った。

10日の間、テベルの生活は心配ではあったが、なかなか充実した時間を過ごした。

テベルの星の運行図と北東の騎馬民族の襲来の運行図が重なるまでは。

約束の10日が過ぎ、イオは急いで観測所を降りた。

研究所は荒らされていた。テベルが研究所の外で倒れているのを見つけた。

「おい、テベル!!」

「おお、イオ…無事でよかった…」

イオはテベルの手当てをしたが、いかんせん物資が足りなかった。近くの街も襲撃され、根こそぎ奪われていた。

テベルは受けた傷が元で高熱が続いていた。

うなされるようにテベルが言った。

「いいんだ、これで」

「よくない!」

「お前は逃れられた。お前はここで生き延びられれば、この世界の支配者にもなれると運行図に出ていたからな」

「なんだよ、それ!!」

熱と疲弊で朦朧としているテベルにこれ以上問い詰めることはできなかった。


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