番外編6 ファナの嫁入り 11
ファナの胸に抱かれ頭を撫でられて、たくさんの出来事で忘れていた涙があふれ、ファナの胸元を濡らした。
自分はどんどん悪くてズルい男になるなと思ってよりファナを抱きしめる腕に力を込める。ファナの胸にカドの頭が埋まるのを感じファナは体をこわばらせた。
ファナが動けないことをいいことにその肩、背、腰、腰から下に至るまで手で撫でる。
腰や腰から下を撫でるたびに、ファナが身をよじるが、放したくなかった。
「そこは・・・おやめください・・・ダメです・・・ひぁ…」
ファナのくすぐったそうな声にも刺激された。もう片方の手で、ファナの後頭部に手の伸ばし、ファナの頭が動かないように固定すると、ゆっくりと唇を近づけていった。
「カド様・・・」
「しー・・・目をつむって・・・」
ファナが言われた通りぎゅっと目をつむれば、カドは薄い笑みを浮かべてファナの唇を自分の唇に重ねた。
緊張して体を硬くするファナと唇を重ねては放し、再度重ね放してを繰り返す。
口付けを繰り返してもファナの緊張が解けずファナの唇が開かないので、無理にでもこじ開けようかと舌でファナの唇を舐めて唇の間に舌を滑り込ませたとき、
「あんたねぇ!うちの娘に!!」
と怒り心頭の父親の声が聞こえて、ファナはカドの腕の中でビクンと大きく震えた。
「父さん・・・カド様!」
ファナから手を離し、ファナを背に隠すようにカドは立ち上がった。
近づいてきた父親のこぶしがカドの腹を殴りつけた。
「きゃあ!!カド様!!カド様!!」
ファナはうずくまったカドに手を伸ばした。
父親は乱暴にも娘の腕をつかみ、カドから引き離す。
「カド様!!父さん…」
「あんなにこの人のそばに近寄るなと言ったのに!!何をしたのか分かってるのか!!」
「父さん…あ…ごめんなさい…」
父親に怒鳴られ怯えて小さな声で謝ったファナを庇うようにカドが腹を抑えて立ち上がった。
「この1年半あまり何度も断られましたし、断られた理由も重々承知しております。改めてお願い申し上げます。ファナを嫁にください。お願いします」
カドはファナの父に頭を下げた。
「何度も?」
ファナは問うようにカドと父を交互に見た。
ファナは求婚されていたなど知らなかった。
1年半なんて長兄嫁が亡くなった後からじゃないか。
父や工房長が断っていたのだろう。
通りで他の縁談はファナを素通りしていくし、工房の若い職人からはちょっかいもかけられないわけだ。
みんなカドがファナを諦めるのを待っていたに違いない。
それに最近はカドの側にいくなと言われていたくらいだ。今日は振り切ってきてしまったけど。
「許すも何もこんだけ目撃者がいれば、うちの娘はほかに嫁の貰い手がつかねえよ」
店の外にはいつからいたのかたくさんの人だかりができている。もしかしたら、ファナが気づいていないだけで、ファナがこの店に飛び込んできたときから見ていた人もいるのだろう。
「責任を取ります。ファナを嫁に下さい」
静かに頭を下げ責任をとると言われれば、父にこれ以上言えることはなかった。
「わかったよ、だがここから先は祝言をあげてからにしてくれ!いくぞ、ファナ!」
そういってファナを引きずるようにして店から出ていった。
カドはファナと父を見送って、唇の端を持ち上げ、ニヤーっと笑った。
悪い笑みを浮かべながら外に集まった人らに手で合図をするとその人たちはその場から立ち去った。
「これで噂流すのは仕込みすぎかなぁ。まあ、ファナが手に入れば何でもいいか」
そういってファナの唇の感触を思い出すように自分の唇に触れた。
ティオベが言ったことは正しかった。自分はファナを失わなければ何度でも立ち上がれると思った。
「俺に押し付けやがって…あの野郎…」
悪態をつくとティオベがニヤっと笑った気がした。
そのあとファナは父親から大目玉を食らった。
結果的に嫁の貰い手がついたものの、下手すればもてあそばれて終わりだとか、捨てられたら体を売って生活するつもりかとか、せっかく大事に育てたのにとか、義理の息子になるにしたって俺はあの男は気に入らんとか、なんとか。
多分な私情がこもっているが、心配する父の気持ちもよく分かったため、黙って小言とお仕置きの謹慎を受けることにした。
いつもアレコレと口うるさく世話を焼いてくれる姉が静かに自分の部屋に閉じ込められているのを弟2人が心配して部屋に覗きに来たほどだ。
弟たちには扉の隙間からみえた姉が少し大人の知らない女性に見えた。
工房長の立ち合いの元、婚約がなされた。
父親は変わらず憮然としていたものの、カドは父親に言われた通り、ファナにはあれ以降、手を出さなかったし、ファナに会うときは短い時間で必ずファナの父か母を同席させていた。事業も落ち着いて采配を振るっている。
約1年ほどたち、ファナが18の初め頃、二人は正式に夫婦となった。
正式な夫婦になるころには、父親のカドに対する態度はすっかり緩和し、花嫁姿のファナを見て涙ぐんで、カドに「娘を頼む」と頭を下げたくらいだ。
祝・結婚!