番外編6 ファナの嫁入り 10
そのご、1年ほど経って次兄の事業は何者かに奪われるようになくなり、次兄と次兄嫁は再起を図るため別の町へと移動していった。
カドの両親も長兄の死をきっかけにすっかり気落ちし、次兄と共に町を離れた。
さらに半年ほど経ち、ティオベはその命を落とし、妻と幼い子供は失踪した。
カドの事業は縮小しながらも、なんとか命を失わず、事業を続けられていた。
自分が事業を続けられているのはティオベが守ってくれたからだとわかっていた。
「カド様」
カドの周りの不穏な空気を感じ、カドから距離を置くように言われていたファナだが、ティオベの知らせを聞いていてもたってもいられず、一緒に家にいた母親を振り切るようにしてカドの店にやってきたのだ。
母から父や工房長のところにファナがカドのところに行ったことはとうに伝わっているだろう。
「ファナ」
ファナはあまりにも消え入りそうなカドを見てその手をぎゅっと握った。
「カド様」
「手を貸してくれるのかい?」
「はい」
真剣なファナの表情を見て、この娘のやさしさに付け込みたくなった。
手を貸すなんて文字通りのことだと思っていないだろうに。
文字通り胸を貸してくれるのだろうか、と。
カドは近くにあった長椅子に腰かけて、ファナの腰に腕を伸ばしぐっと力任せに抱き寄せた。ファナはカドの脚にまたがるように長椅子に膝をつき、わたわたしているうちにその胸にカドが頭を摺り寄せてきた。
「うわ、えと・・・カド様・・・」
「胸も貸してくれるんだろ?」
あれは言葉の綾だとは思ったものの、弱ったカドに弱々しい視線を送られてうなずいてしまった。
自分よりも悪い男に付け込まれて手折られるより今このまま自分のものにしてしまおうとカドは思った。
ファナの胸に抱かれそのままじっとしていると、ファナもカドの熱に慣れてきたのか、カドの頭を優しくなでてきた。
ファナはカドの頭を胸に抱き、弟たちがいつからかファナの胸に抱かれることから逃げるようになったことを思い出した。
末の弟は間違いなく上の弟の真似をしているだけだと思う。
だって、上の弟がいないときはぎゅっと抱き着いてくるときがあって、そんな様子を見て父も母も呆れているのだから。
上の弟だってぎゅうっと抱きしめられたら甘えるように胸に頭を擦り寄せていたのに、ある時何かにハッと気づいて顔を真っ赤にして逃げてしまった。
それ以降、抱きしめようとしても逃げられるようになった。
そう言えば弟たちが悪態をつくようになったのも自分が母に代わってぎゃあぎゃあ口うるさくなったのもその頃からの気がする。
甘えてくれていた頃の弟たちを思い出して懐かしくて、急にカドを愛しくなって頭を撫でていると自分も落ち着いた。