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嫦娥は悪女を夢見るか  作者: 皆見アリー
番外編
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番外編6 ファナの嫁入り 4

 その後、見合いは別にして工房との取引でもう一度訪れた時、カドは工房裏の倉庫で工房の見習いと小間使いをしている弟たちにきゃんきゃん文句を言っているファナの姿を見た。

「こら!あんたたち!!どこに運ぶかちゃんとわかってるの!?」

「そんな口うるさいと嫁の貰い手がつかねえぞ、姉さん!」

生意気盛りの弟に反抗されて、ファナはきりきりとしていた。

「なんですって!!トラン!!」

「姉さん、月のものか?そんなキリキリしてると姉さんを好きな職人連中に逃げられるぞ!」

「その生意気な口を閉じなさい!!どうせ私はモテないわよ!!」

目を釣り上げる姉に弟はもっと生意気を言ってやれと言わんばかりの悪い顔をして、舌を出した。

その顔にムカッとした様子だが、もう1人の弟にチラリと目をやると表情が変わった。

「・・・ああ、ヤン!!ちゃんと前を見て!!!危ない!!」

大きな荷物を抱えた末の弟がふらふらとした足取りで、姉に呼ばれた声で後ろを振り返り、バランス悪く積み重なった木箱に激突しそうになっていた。

カドはヤンと呼ばれた少年が木箱にぶつかる寸前で首根っこを捕まえた。

「危ないよ」

ヤンと呼ばれた少年は何が起きたのか理解できないのか、きょとんとしていたが、そこにファナが飛んできた。

「ありがとうございます!ヤン、ちゃんとお礼をして」

「いやいや、礼には及ばないよ。お姉さんの言うとおりちゃんと前を見なさいね」

カドはヤンに注意すると、ヤンはこくりと頷いた。

ファナは頭をあげて、カドを見上げて、頭の中の顧客表と名前を一致させようとしていた。

お茶出しだけで名前も知らない客などさすがに覚えていないか、とニコリと笑みを浮かべた。

「先日工房を見せていただいている。私はカドという。今後も見知ってもらえると嬉しい」

「カド様、ですね。もちろんです。今後ともごひいきによろしくお願いいたします」

ファナもニコリと笑みを浮かべ、背筋をスッと伸ばし、カドに軽くお辞儀をした。

そんな様子を見て、弟たちは口うるさい姉が大人の女性のようでちょっとびっくりした。

「君、名前は?」

「ファナと申します」

「ファナ、いい名前だね。君みたいな面倒見のいいお姉さんがいて弟たちは幸せだね」

「え・・・そんな・・・」

恥ずかしがって、視線をそらし、謙遜しようとするファナの顎に指先を当てて、視線を自分の方に向けさせた。

「褒めたのだからお礼を言ってもらえると嬉しいな」

「あ・・・あの・・・」

ファナの顔がみるみる上気した。カドは優しそうな視線を向かわせながら、礼を促す。

「ありがとうございます」

ファナが言うとカドは嬉しそうに笑み、軽くファナの唇を指で触れて手を振って去っていった。

真っ赤な顔をして、カドが立ち去った方をファナは見つめていた。

「姉さん・・・ヤンが材料ぶちまけた・・・」

弟の声にはっと我に返ったファナは末の弟が材料の粉まみれになってむせて居る姿をみて悲鳴をあげた。

ヤンから粉を叩き落とし、腰から下げていた手ぬぐいで顔を拭き、もう一人の弟にホウキとちり取りを取りに走らせた。

そんなファナの悲鳴を背後に聞きつけてカドはふふふと笑いをかみ殺した。

「俺の好みか…なるほどね…」

一人呟いた。

またファナの顔を見に行こうと思ったし、先方は急ぐつもりはないだろうが、悪い虫がつかないようにどんな形であれ先達に話を通してもらおうと思った。


 お使いの帰りに今日は会えないと思っていたカドにあえてファナは足取りも軽く、工房へと帰っていった。

カドの先達という男は「初めてあったかしら?」なんて考えたものの、笑顔が本心ではない気がして底が見えずなんだか恐ろしい気がした。


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